【臨也】


鋭いのはナイフと、言葉だけで良い。

ぱちぱち、ぱちん。

身体の一部だったものを、切り捨てる。
落ちていく、自分。
さよなら、ぱちん。

「今日もシズちゃんは化物だった」
「化物」
「化物」

ぱちん、半月型のそれが散らばる。笑うように弧を描くそれが、気持ち悪い。

(元々は俺の一部だったのにね)

今日も俺はおれだった。池袋の喧騒は相変わらずで、人々は今日も俺の愛すべき存在。変わらない、変わらない。
ただ今日は。

爪を、切る。
変わらぬ化物の彼に会った今日は、爪を。

ぱちん、ぱち、ばちっ。

「あーぁ、切りすぎたかな」



切っても切っても痛みを感じぬそれ。

愛されることなく棄てられるおれ。


さよなら、もう用済みだ。そのままさよなら、ごみ箱の中へ。


ぱちん。

爪切り

101105 (Fri) 22:46

BLコンテスト・グランプリ作品
「見えない臓器の名前は」
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