■ こんなはずではなかったのに、と嘆く君を見て僕は愛しく思うのだ。

赤司征十郎。

バスケに興味がなくったって、帝光の人間なら名前と容姿くらいは一致している。それくらい存在感もあるし、目立ちもする。もちろん私も例外なく、彼のことは小耳には挟んでいた。綺麗な顔立ちに一度見たら忘れられないであろう鮮やかな髪色。あぁ、イケメンってこういう人のこというんだな、と初めて見たときに思った。モデルの黄瀬涼太もイケメンだがそれとは違う系統だ。まぁ、そんな完璧人間を、いわゆる違う世界の人間としか捉えていなかった。

それなのに、

「返事を聞いてもいいかな?」

にこり、と綺麗な微笑みがこちらに向けられている。返事、というのはつまり、あれだ。告白をされたのだ。

わけがわからない。彼とは全く関係なんてない。クラスメイトにすらなったこともないしもちろん言葉を交わしたのも今が初めてだ。目を引く容姿をしているわけでもないしどこかが秀でているわけでもない。まったくもって謎だ。

「お断りします」

もちろんこの一択しかないに決まってる。

なんでそうも意外そうな顔をするのだろうか。いくらイケメンだからって出会いがしらに告白ってそんな失礼なことが許されると思っているのだろうか。あれ、なんかちょっと腹立ってきた。

「好きってその意味理解しているんですか?」

「そのつもりだよ」

「どうして今まさに初めて言葉を交わした人間に好意を抱くことができるんですか?あなたとお話するのは初めてだと思っているんですが私の勘違いでしょうか?どちらにせよ詳しく知らない相手に対してどうやったら好意を持てるというのですか?私があなたの描くような人間だとはっきり仰ることができるんですか?全くもって理解不能です。一昨日きやがれ」


喋り出したら言葉が止まらなかった。最後の捨て台詞は完全にいらないものだろう。あえて敬語なのは慇懃無礼を狙ってのことだ。初対面の人にタメ口で話せないっていうのもあるけど。言い捨てて私はさっさとその場をあとにしようとしたのだ。金輪際この人と関わることもないだろう。まぁ、イケメンに告白されて悪い気はしない、うん。……どうやら本人を罵倒することで私の怒りは収まったらしい。なんて単純なんだ、と歩みを進めていたら後ろから腕を掴まれた。

「じゃあ、今から君のことを知りたいんだけど、いいかな?」

「はぁ?」



(2013)


[ prev / next ]