07 

遅い朝食を済ませ、リドルに連行されてから気付けば昼過ぎになっていた。もちろんドラマは終わっている。終わっているついでに昼食の時間もとうに過ぎてしまっていた。

「おなかすいた…」

ゆったり過ごそうと思っていた午前中を潰され、さらに昼食までなしとくればナマエの機嫌は最悪だった。せめてその不満をリドルにぶつけてやろうと遠回しに言ってみたのだが、それに気付いているのかいないのかリドルは涼しい顔をしてすたすた前を歩いていく。

「もうこんな時間だったのか。ナマエ、そんなとろとろしてると置いていくよ」

なんだろう、この態度のデカさ…!いくら恋人だからっていつでも一緒にいなくちゃいけないわけじゃないじゃないか。そもそも恋人とか言ってもかなり一方的だったし。(しかも利用目的)ちゃんと付いていってあげてるだけありがたいと思ってもらいたいくらいだ。心の中で悪態をつきながらつかつかと進んでいくリドルの後を慌てて追いかけたのだが、突然足を止めた。

「ぶへ、ちょ、何。いきなり止まんないでよ」

(当然私はそのまま進もうとしてぶつかった)リドルは一瞬眉間に皺を寄せて"どんくせーな"とでも言いたげに一瞥してから廊下の壁にかかる絵画に向き直った。

「昼食をもらいに行くんだよ。君だってお腹がすいたと言っていただろう」

これまた呆れたように言うもんだから、いらっとくるが昼食にありつけるなら問題ない。沸々と沸き上がる怒りも食欲には敵わない。目の前の背中を睨みつけることばかりしていて現在地を把握していなかった。ここはまさに厨房に入る例の絵画の前。場所こそ知ってはいたけど特に用もないから近寄っていなかった。なにより私は屋敷しもべ妖精が少し苦手だ。

リドルは慣れたように絵画を傾けて中へと入っていくので私もそれに続くしかなった。





……うっわー、やっぱりちょっとうぜぇ…

私の目の前に広がるのは屋敷しもべ妖精の大群。しかも、私とリドルの登場によって厨房内はキーキーという耳鳴りの数倍の威力だと思われる騒がしさに包まれた。それは専ら私に注がれる好奇の視線なわけで。

「お名前は何とおっしゃるのですか?」

「トム・リドル様が誰かを連れてこられたのは初めてのことです!」「お嬢さんには、アップルパイもお付けしましょう」などと屋敷しもべ妖精に押し掛けられる始末だ。

「いや、あの。お気遣いなく。あ、私はナマエ・ミョウジです」

あわわ、とあたふたしているとキーキーと騒がしい中でよりいっそう甲高い声が私を呼んだ。

「ナマエ様!」

「え?」

辺りを見回してみるが正直声の出所が分からない。(みんな同じに見えるよ!)もう一度ゆっくり見渡すと一匹(1人?)ぴょんぴょんと跳ねる屋敷しもべ妖精がいた。

「ナマエ様。ブリューでございます。ナマエ様!」

……だれ。

今まで生きてきて屋敷しもべ妖精の知り合いなんかいません!でもブリューと名乗る屋敷しもべ妖精は確かに私の名前を呼んでいる。ようやく前に進み出たブリューは嬉しそうに(多分)耳をぱたぱたさせて話し出した。

「ナマエ様がまだお生まれになったばかりの頃、ブリューはミョウジ家にお仕えさせていただいておりました。ナマエ様がお生まれにになってすぐフウル様がブリューめにセーターをくださったのです。"君は十分働いてくれた"と仰られて。うぅ…」

そこで思い出して嬉し泣きをしているのだろう。嗚咽を挟みまた口を開いた。(ちなみにフウルはお父さん)

「なんとお優しい方なのでしょう。ブリューはフウル様にはまだたったの5年しかお仕えしていなかったのです。それなのにフウル様は。素晴らしいお人です。自由になって戸惑っていたブリューにホグワーツも勧めていただきました。もう本当に……」

「わかった。あなたのことはわかったから!」

そう言ったもののブリューは泣いたまま、泣き止むどころかよりいっそう激しく泣き出している。はぁ、と自然にため息が漏らした。それにしてもうちに屋敷しもべ妖精がいたなんて初めて知った。リドルにも言ったように私はハーフだ。父さんが魔法使いで母さんがマグル。純血の家でもないのに屋敷しもべ妖精がいたなんて。まぁそういう家系もあるかもしれないが私の記憶では我が家はそんな贅沢な家ではなかったはずだ。リドルも同じことを考えているのだろうか。今までわずかに歪められた顔は真顔になり、何かを考え込むように黙っている。しかし、それもすぐに元に戻りいつもの調子で口を開いた。





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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)