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目の前にはにっこりと満足げに微笑むリドル。そんなやつとは対照的に私の顔は自然と歪む。

「じゃぁ早速デートにでも行こうか」

「は?」

怪訝そうに眉を顰めてみたが、私に選択肢はないらしい。訳が分からないまま連行されていきましたとさ。せっかくの休日はこいつの手によって潰されるみたいだ。あれだけ懇願していたドラマの再放送も総スルーですよ!

「ちょっと待ってよッ!ドラマがあるって言ってるでしょ!」

「ナマエは僕よりテレビを取るのかい?」

そう言ってわざとらしく悲しそうな顔をする。たいていの女子生徒なら喜んでリドルに飛び付いていくだろう。しかし、残念!私はたいていの女子生徒には含まれないようだ!

「そんな顔してもダメだからッ!せめてドラマくらい見せろや」

「女性がそんな言葉使いするもんじゃないよ」

「シカトすんなぁぁッ!」







ずるずると引きずられるようにして連れて来られたのは最近来たばかりの見覚えのある場所。

「リドル君、初デートの場所がトイレってどうかしてると思うよ。それとも最近はそういうのがハヤリなのかな?」

「君、僕を馬鹿にするのもいい加減にしてくれる?」

ちょっと真面目に言ってたのにな。笑顔で返されたから何も言わないでおこう。(怖い!)

そう、私が連れてこられたのはトイレ。それも私とリドルが昨日遭った女子トイレだ。あぁ、そうだ。昨日トイレに行くのを寮まで我慢していればこんなことにはなっていなかったのに。昨日の自分をぶん殴ってやりたい。そもそも寮を出る前にたっぷり紅茶を飲んでいたからトイレが近くなったんだ。きっとそれもいけなかった。ぐるぐると昨日の自分を振り返っているとリドルに睨まれた。頭の中でさえ私の自由はないらしい。

私に一瞥くれてからリドルはフイッと視線をそむけ何か空気が漏れるような音を発する。

「どうしたの?とうとう頭狂った?」

「・・・さっきから君は。殺されたいのか?」

「滅相もございません」

目が・・・。目がマジでした。お母さん。私は今、本当に殺されるかと思ったよ。よしよし、大丈夫。まだ生きてる。余計なことを喋るとまたリドルに睨まれるからとりあえず黙っていた。(また心読まれてるかもしれないけど)それにしてもよく女子トイレにのこのこ入れるよなぁ、リドル。しかも今真昼間。やっぱ頭いい人はやることが違うな。というより、理解できない。むしろ理解したくない。


ただ突っ立ってリドルの様子を見ていると、トイレの蛇口に向かってまた空気が漏れるような音で、よく聞くと何か話しているようにも思える。そして全て唱え終わったのかガシャンガシャンと、物音を立ててさっきまで水道だったそれはなくなり、大きな穴が開いた。



「リドル?」

「…………」

私の問いかけにリドルは答えない。そして妙に真剣な顔つきをしている。さっきまでのふざけた雰囲気は、ない。リドルのやけに緊迫した様子を怪訝しく思っていると、穴の中から何やら物音が聞こえてきた。それはズズー、と何かが這うような音で――――――蛇、かな?ということは昨日の蛇なのだろうか?あれはやけにでかい蛇だった。バジリスク、だっけか。

昨日、暗い中ではっきりと見えなかった蛇を思い起こしながらリドルに近寄り、穴の中を見つめる。音はやがて少しずつ大きくなりこちらへと近づいて来ているようだ。目を凝らして暗闇を見つめると真っ先に見えたのが、金色の二つの光だった。







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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)