これまでも、これからも、君のことを 

朝、大広間に行くと相変わらず寝癖を無理矢理撫でつけ、昨日ハンガーにも掛けずに投げ捨てたようなくしゃくしゃのローブに身を包んだナマエが年頃の女子とは思えない朝食をとっていた。良く言えば、気持ちが良い食べっぷりとも言えるがほぼ毎日、しかも朝からあの様子を見るのはこっちまで胸やけしてしまいそうだった。寝不足が続いて体調がいまいちよくない時にも同じように食べるものだから、「胃が痛い…」とか言って胃薬を飲むはめになってる。馬鹿だ。


「おはようナマエ」

「おはよ、今日は遅かったね」

「ん、あぁ…」

確かに。指摘されたようにだいたい僕の方が早く大広間に来ていてナマエがあくびをしながらやってくるのが常だ。それに反して今日はすでに彼女はデザートのフルーツに手をつけている。

「少し、冷えたからね」

「あ、布団から出れなかったんだ!お布団愛しいもんね、この季節…!」

フトンって・・・ベッドなんだが。それにしてもやけに機嫌がいい。普段は朝から無駄に話をすることなど無意味、というように黙りこくって今にもまた眠ってしまいそうにしているのに。

「今日は何かいいことでもあるのか」

「いやぁ、天気見て雪が降りそうだなって」

「珍しいのか?」

「いや、そうでもないけど。やっぱ初雪ってテンション上がるじゃん」

リドルも一緒に雪だるま作ろうね、とか言ってるけど僕が雪の塊を転がしてる姿なんてシュールなことこの上ない。適当な生返事をして聞き流すことにした。




その日の夜、彼女の言うように初雪が降った。はらはらと舞う程度のものでこれではまだ雪だるまを作る程には積らないだろう。それでも廊下の窓から雪が降るのを見ると、「雪だ!」と1番近くのバルコニーのある部屋に駆けだしてしいまった。

はぁ、と1つ溜息をつくとぶわっと白い息が出る。気がつけばこんなにも冷え込んでいたようだ。ゆっくり歩きながら彼女が向かった部屋につくと、窓が全開になってるせいかさらに厳しい冷気が吹き込んできている。

「ごみ降ってる!」

「はぁ!?」

「こうやって上向いてると綿ぼこりが降ってくるみたいに見える!」

「…君さ、もうちょっとロマンチックなこと言えないのかい?」

「え、リドル、そんなもの求めてたの?」

「一般論だよ一般論」

ごめんねー、かわいい女子っぽい発言できなくてーと言いながらまた上を向いて楽しそうにしている姿を見て、それなのにこんな君が好きなのだから僕もどうしようもないなと改めて思ったのだった。


(いい加減、馬鹿でも風邪引くよ)
(馬鹿でも、は余計なんだよ)
(その通りなんだからしょうがないだろ)





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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)