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「……ん、」

瞼を上げると温かい日差しが差し込んだ。不快な暑さもなく、また眠ってしまいそうになる。

寝返りを打てばお気に入りのテディベアが見えた。いつだったかの誕生日に父さんがくれたものだ。

ん、でもこれは家に置いてあったはずじゃ。

ガバッ

勢いよく体を起こす。そうだ、リドルは、いや、それに私の目は、あの子はどうなっ、

「目が覚めたかい?」

「リド、ル……」

「随分眠っていたから心配した」

巳族のものといっても体にあった魔力が抜けてしまったせいだろう、とかなんとか言っているリドルはなんかもう拍子抜けしてしまうほどに穏やかで、口調こそ偉そうだけど気にかけてくれてるのが分かって似非じゃなくてちゃんと紳士で、

「好き、…」

「は?」

「え、あ、いや、」

口に出てた!?ななななな何を、寝ぼけてたせいだ絶対そうだ!私はなんてことを口走って、え?私リドル好きなの?いや、嫌いじゃないけど。私のためにここまでしてくれてもう本当に感謝の気持ちでいっぱいだけど!

勝手にパニックに陥っていたけど、一向にリドルの反応がないことを不審に思って、ぱっとリドルを真っ直ぐ見る。

「リドル?」

「本当、に?」

目を合わせてくれない。


目どころか顔を逸らされてしまっているしさらに俯いていて、

「え、照れてるの?」

「な、ちが、ナマエの口からそんなこと一言も……!」

顔が、真っ赤だ。

あのリドルが・・・。てゆうか恥ずかしいのは私の方なんだけど。リドルの顔を見て私までもっと恥ずかしくなってしまった。

「あ、ねぇ、目は?私の目どうなってるの?」

「あぁ、ほら」

ぱっと手鏡が渡される。用意してくれてたのかな、さすが。

というか、無理矢理話をそらしてしまったけど、緊張、する。リドルの様子からもう全部終わったんだって思うけどやっぱり緊張する。

瞳の色が変わってしまったときの、あの瞬間が、あの色が、忘れられない。

きゅっと1回目を瞑ってから恐る恐る目を開ける。

鏡には慣れ親しんだ黒色しか映っていなかった。

「よか、った……」

鏡から顔を上げれば、リドルと目があって微笑んでくれた。頭をぽんぽんと撫でられる。

「頑張ったね」

もうなんかいろいろ泣きそうになった。






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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)