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あぁ、子ども体温のせいかなぁ。なんだか眠たくなってきた。小さいリドルはどうしてしまったのか微動だにしないし、かといって私がやたらに動いていいような空気でもない気がする。いや、ただの気のせいかもだけど。てゆうかリドルも寝てたりして!とか言って顔覗き込もうとしてギロリと睨まれてしまっても心が折れる気がする。腕だけは、苦しくないように、それでいて不安になってしまわないようにやんわりと小さな体を包みながら、ぼんやりと考えていた。でも小さいリドルが私を掴む腕を緩めないことから、リドルが寝てしまっていないということはわかっている。さて、どうしたものか。というかなんなんだろう、ここ。最初に思うべきか、こういうのは。

コツン、

「?」

背後だった。

私はしゃがんでリドルを抱き締めているから足音なんて鳴るはずない。腕の中で身動き1つしないリドルもしかり。振り向きたいけど、なんか怖い気もする。

コツン、

コツン、

近くなる足音。


え、これなんてホラー?やばい怖い。

顔には出していない(つもり)ものの内心焦りまくりの私を他所に、リドルが肩に埋めていた頭を上げしっかりと前を見た。つまり、私の背後だ。さらに恐ろしいことにリドルがきゅっとかわいらしくも、私に回した腕の力を強めたのだ。そう、まさに何か良からぬものがいるように。


自分が冷や汗をかき始めたことに気づきつつもまだ振り向く勇気もなく、私も小さいリドルを抱き締める力を思わず強める。


「あ、………」


背後まで迫っていた気配。わけの分からないこの状態に舞い上がってしまっていたのかもしれない。ふわりと暖かい温もりが背中を覆った。


「ナマエ」


リドルだ。


後ろから小さいリドルごと私を抱き締める腕がさっきの空気とは打って変わってとても暖かい。ほんと、何をびびっていたのやら。つい、くすくすと笑いがこぼれてしまった。後ろでリドルもふ、と笑うように息をついた気がする。

それも束の間、小さいリドルを抱き締めるはずの私の腕が急にその感覚を失った。

はっとして視線を下げればうっすらと小さいリドルがみえる。ただもう、実体はない。透けてる、って言ったらいいのかな。同じ様に抱き締めようとしてもそれは叶わなかった。

呆然とただ見つめるしかできない私をよそに、スッとリドルが手を伸ばす。リドルの手は小さい頭をぽんぽん、と撫でると

「大丈夫だ」

はっきりした声で言った。


小さいリドルは笑みを浮かべて消えた。






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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)