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大丈夫、父さんはそう言うけど私には何が何だか分からない。リドルは自分でその答えを見つけたのかそれとも察したのかは分からないけど、とにかくこれから何が行われるのか分かっているようだ。でなければリドルの纏う空気がこんなに張り詰めているわけがない。私は特別な存在ではない。今でこそ巳族だのなんだのって大変なことになっているけど。でもそんな私にでさえ、リドルの緊張は分かる。

「じゃあ、ナマエはそこ。リドルはここに立って」

話している間に、部屋中に大きな魔方陣が描かれていた。手間の多さから廃れていってしまった古代の魔法の1つだ。父さんに言われた通り、私は魔方陣の中心に立つ。振り返ると父さんとリドルが何か話しているようだった。リドルが1つ頷く。

「私は儀式の最中は室内にいることはできないんだ。儀式が始まればあとは流れにまかせればいいよ」

にこり、と微笑んで話すのは私を安心させるためのようにも思えた。魔方陣の中には入ったらいけないみたいで、父さんは陣の外から私に話しかけた。

「ナマエ、悪かったね」

「……」

父さんのせいじゃ、ないのに。

辛いのは父さんの方じゃないの?

「ピアスを外してごらん」

言われた通りにピアスを外す。相変わらずそれは、リドルの瞳の色によく似ていた。

「ナマエの瞳は母さんによく似た綺麗な瞳だったね」

真っ直ぐに私を見る父さんは、私自身を見ているというよりは私の”瞳”を見ていた。きっと、前よりも金色の混ざった色になってるんだと思う。

「自分を、リドルを信じなさい」

最後に強くそう言って父さんは部屋を出た。

どういう意味だろう。これから何が起こるんだろう。自分のことなのに…。

「……リドル」

父さんが出て行ったドアから視線を外して、正面に立つリドルに向き直る。やっぱり、とても空気が重い。

「これから何をするの?」

「君の瞳を元に戻す」

「どうやって?」

「やれば分かるとフウルさんが言っていた」

「でも、分かってることもあるでしょ?」

「……」

リドルの目が泳いだ。もうなんだかおかしい。普段だったらリドルがこんなにあからさまに感情を表に出すことなんかない。いつもだったらしたり顔で笑ってやるのに。

「リドル、教えて」

「これはあくまでも憶測だ。いいか、バジリスクの主はスリザリンの継承者である僕だ。だからこそバジリスクは僕に従う。バジリスクの血は僕に従うものと考えると君の瞳にも通用するのではないか、という仮説が立てられる」

「う、うん」

「スリザリンの継承者である僕の血、そして魔力はその瞳の能力を抑えられるのかもしれない」

「できるの?」

「分からない」

口では簡単に言うけど、じゃあ結局何をするんだろう。なにか、呪文とか、そういうのがあるのなら、それだけで済むのならいいんだけど。そんなわけじゃないんだろう。だってリドルの顔はずっと緊張したままだ。

「始めよう」

まるで無理矢理話を終わらせるようだった。









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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)