49 





階段を降りた先には、とくに何かあるわけでもない。ただの開けた空間があった。ただ窓がなくて異様に暗くて空気の籠った場所、とでもいえばいいのか。それくらい何もない空間。

「フウルさん、1つ聞いてもいいですか」

「うん?」

「ホグワーツでナマエの瞳の能力を抑えるピアスを見つけました。あれは貴方の物ですか?」

あ、そうだ。さっきリドルが言ってた。そうだよ、それでなんとかできれば全て万々歳じゃないか。薬みたいにして飲むだけ、とかなら本当に助かる。

「そうだよ。ちゃんと見つけてくれてたみたいでよかったよ」

父さんはちらりと私に視線を送る。今も私の耳にはそのピアスがはめられていた。

「あれは一体何から作られているんですか?原材料の工夫次第で瞳の効力をなんとかできるんじゃ…」

「私も考えたんだけどね…それは不可能なんだ」

「そんなことやってみないと…」

「リドル、あの瞳はあらゆる命を奪う言わば“死”の塊とも言える。ではその反対といったら何かな?」

「…生」

ぽつり、と呟いてすぐにリドルはハッとして息を飲んだ。私には何を言っているのか分からない。

「まさか、フェニックス…?」

父さんはゆっくりと頷き、言いづらそうに口を開いた。

「フェニックスの羽とかは杖の材料になったりすることもあるけどね。そのピアスは、」

父さんは一瞬言うのを躊躇った。それでもはっきりと、言った。

「心臓だ」

「し、んぞう…」

「フェニックスは死なない。不死鳥だからね。だから普通に考えてフェニックスの心臓が材料なんていうことはありえない」

気持ち悪くなりそうだ…心臓ってどういうこと、今私のはめてるピアスがフェニックスの心臓って…しかも普通はそんなもの作れるはずないのに一体どうやって…

「心臓を抉り取ったんだ」

「「……!」」

抉り、取るって…生きたまま、取りだしたの…?

「それを高圧の魔力で圧縮して、できたものらしい」

バジリスクに教えてもらったんだ、という父さんの顔も酷く歪んでいた。まだ巳族が一族として成り立っていた頃、このピアスの精製が取り組まれたそうだ。それもそうだ。今、そんなことをしたらアズガバン直行。裁判も何もなしにディメンターにキスをされてもおかしくない。

「残念だけど、そのピアスでさえも一定の間瞳の効力を抑えることしかできないしね」

父さんの言葉は、残酷だった。
でも父さんは、この気持ちは2回目なんだ。
だから、だからこそ、自分の目を潰すことさえ考えたんだ。
この、絶望的な状況に至ってしまったから。

じゃあ、一体どうすれば…、

「でも、ナマエにはリドルがいるね」

きっと大丈夫、願うように父さんは言った。








[51/62]

index


Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)