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「それで、一体どうしたらこの目なんとかできるの?」

「これは僕の憶測に過ぎない。だが、フウルさんが僕に求めているとすれば、この状況を考えると、だ。バジリスクの能力を持ったナマエ、そしてそのバジリスクの主はこの僕だ。つまりその能力を抑えることができるとすれば僕しか考えられない」

的確に今の状況を分析して考え込むリドル。なんだかリドルらしさが戻ってきて安心する。かく言う私も今振り返ると、相当な失態をリドルに曝しているため笑えないなと思えてきた。でも、なんとかなるかもしれない。そう思うと自然と気持ちが高揚するものだ。

「そして、もう1つ気になるのがナマエがつけているそのピアスだ。実はそれ、ある部屋から拝借したんだが…」

「盗んだの!?」

「物置みたいな部屋からだ!」

…あぁ、もしかして必要の部屋かな。私もあそこは何度か行ったことあるけど。

「そのピアスが入っていたケースに、不自然にメモがつけられていたんだ。『瞳の効力抑制』と。一か八かと思って君に渡したんだが、実際効果があって驚いた」

「このピアス、父さんが使っていたもの、だよね?」

「あぁ。記憶の中で見たものと間違いないだろう。フウルさんが何か知っているといいんだが。そもそもその原材料から何か抑制するための薬でもなんでも作れる可能性もある」

…さすが、と言ったところか。私は付けるだけ付けてこのピアスが何から出来ているのかなんて考えもしなかった。やっぱりリドルってすごいんだぁ、なんて改めて感心する。

「とにかく1度戻ろう。フウルさんに話をする必要がある」







家に戻る道のりはひたすら無言だった。でもそれは不自然な、嫌なものではなくて、リドルもなにかいろいろ考えてるのかなって思えるものだ。

私の瞳はどうなるのか、もちろんそれが一番大事なことなのに、どんどんリドルのことで頭がいっぱいになる。マグルを殺すと言ったこと。私を助けたいと言ったこと。どちらもリドルだった。一緒に過ごしてきたリドルと合致するなって単純に思えた。そもそもどうしてリドルがあんなにも執拗に私と関わりを持ちたかったかも。バジリスクと引き合わせたことも。全部リドルの目的のため。それなのにリドルはここにいる。私の瞳が徐々にバジリスクのものと同じ効力をもつようになることは本当は喜ぶべきことのはずなのに。リドルは、目的よりも私のことを考えてくれたんだろうか。そうだと思いたい。好きだと言ってくれたことも、全然実感はないけど、その気持ちを信じたい。







家に帰ると父さんは今度はチェリーパイを頬張りながらミルクティーを飲んでいた。ちなみにさっきまではローズヒップだ。皿の大きさを見るに結構な量のチェリーパイを食べているようだ。そんな間抜けな状態だったが、私たちが戻ってくるのを見ると…、というよりはリドルの顔をじっと見つめてそれからにっこり笑った。(口はまだもぐもぐしていた)


「覚悟はいいみたいだね」

「はい」


絶対に父さんの方が空気読めてない感丸出しのはずなのになぜか私が蚊帳の外になっている。父さんはこっちに来て、と言ってリドルを導く。わけも分からずそれについていく私。なんだか腑に落ちない。

辿りついたのは父さんの書斎。この部屋だけはスリザリンを思わせる暗い雰囲気が漂っている。というのも本が大量にあるせいで棚が窓を塞いでいるからなんだけど。

「こっち」

そういって父さんは杖で床をコンコンと軽くノックした。

「え!?」

ゴーッとなかなか盛大な音を立ててたった今まで床だった場所にぽっかりと穴が開いた。

「な、これ…え!?」

「こっそり作ってたんだ」

そんな簡単にできるものなのか…とにかく、スリザリンの人はこういった感じの仕掛けが好きらしい。今のは完全にデジャヴだった。
見るとそこにはご丁寧に装飾まできいた階段があって父さんの変な凝り性を思い出して少しだけ気持ちが和んだ。リドルはずっと黙って強張った顔をしている。正直、私はこれから何をするのか、もしくは何が起きるのかまるで想像もつかない。でも、リドルがこんなに緊迫しているってことは相当のことなのだ。そう理解しているはずなんだけど、やっぱり分からなくて私はやけにリラックスした状態でいたのだ。

「ナマエ」

「?」

いきなりリドルが振り返る。父さんはすでに地下に降りて行ったようだ。相変わらずリドルの表情は固い。横から表情を伺ったのがバレたのかリドルの視線がこちらに向けられた。

「僕を、信じろ」

腕を引かれてそのまま抱きしめられる。信じろっていうわりにはぎゅっと縋るような動作で思わずポンポンと背中を軽く叩いてしまった。子どもをあやすように。どうしてリドルはこんなに緊張しているんだろう。私が何も察することができていなくて歯がゆい。リドルはすっと私の腕から抜けて階段を降りていった。私も慌ててそれに続く。中はやけに暗くて、怖い。

なんにせよ、リドルは私のために全力を尽くそうとしてくれている。なら私のすることは1つだ。

絶対に瞳を元に戻す。









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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)