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「リド…ル?」

「……」

今リドルはなんて言った?好き?リドルが私を?言ったきりリドルは黙ってしまった。それも瞳は決して逸らさないまま。

待って。なんで。今私はどうにかこの瞳をなんとかしたくて、それで・・・。リドルが本当に私を好きだとしよう。そして私は告白されるなんて生まれて初めての経験なわけだけど…。こんな苦しそうに言うものなの?私がなにか聞き間違えたんじゃないと思うくらい、リドルは辛そうな表情を浮かべている。それは好きだとかそういう感情を抱えたものじゃなくて、なんてゆうか、苦しそう、なんだ。

「あの、リドル…」

「ごめん、忘れてくれ」

「は?」

私が声をかけると時が止まっていたかのように動かなかったリドルが視線を逸らし、背を向けてしまった。それも忘れてくれとか…。

「意味分かんないよ、リドル!それともこのタイミングで冗談?空気読んで…」

「違う!」

こんなに大きな声を出しているリドルは初めてだった。こんなに感情を露わにしているのを見るのも初めてだった。

「僕はただ、君を助けたいと思った!でも僕は…」

リドルは背を向けたままだった。泣いているような気がした。

「僕にそんな資格なんてないんじゃないかと…」

私は小走りでリドルに駆け寄った。回り込んでしっかりと顔を合わせる。泣いてはいなかった。だけどあの自信に満ちた表情は欠片もなかった。瞳の色は黒かった。

「なんでそんなこと言うの?私を助けてくれるんでしょう?父さんが言ってた。この瞳をなんとかするにはリドルに聞いてみろって。リドル…、リドルは言ったら絶対に実行する頑固な奴でしょ。リドルにできないことなんてないでしょ?それとも最初から何もしないの?そんなの、リドルじゃない」

我ながらマシンガンで捲し立てた。なんかこっちが泣きそうだ。でも確実に泣きたいのは私であってなんでリドルがこんなおかしな状態になってるんだ…?あれ、私気付くの遅…

「僕はマグルを殺したいと思っていた」

「……え?」

マグルを……殺・・・・・・?何を言って…

「フウルさんが言ったように、僕はスリザリンの末裔だ。その血は母方に流れたいた。」

淡々と語るその口調はさっきまでの感情は籠っていない。ただ事実を並べているように話していく。

「でも母親は僕を生んですぐに死んだ。…父親は母を見捨てたんだ。…マグルの分際で」

『父親』という言葉を言うことを躊躇ったようだった。最後に確かに憎しみが籠るのが分かった。あぁ…リドルが抱えていた闇はこれだったのか。

「僕は1人きりだった。孤児院でも、最初は魔力が暴走することがよくあって、周りの人間は僕と距離を置いた。僕を認めてくれる存在なんてなかった。だから僕は周りの奴らは僕より劣っていると思い込むしかなかったんだな…」

自嘲しているようだった。過去を分析するように語っていたけれど、もしかしたら自分の過去をそういう風に受け止めたのは初めてだったんじゃないかな?だってリドルは、自分を、ここまで生きてきた自分を自ら否定するようなことはしない。少なくとも私が知っているリドルはそういう奴だ。

「僕は今まで本当に実行する気でいた。秘密の部屋を開けたのもそのためだ」

「!」

つまり、リドルはバジリスクを使って、マグルを殺そうと考えていたといこうことだ。…それは、つまり…

「ナマエを利用するつもりでいた」

そうだ、そういうことになる。あんな大きな大蛇を率いるよりは一見ただの人間にしか見えない私を利用できたらどんなに素晴らしいだろう。

「マグル抹殺のために、なんでもしようと決めていたんだ。誰よりも魔力をつけなければならない。多くの知識を必要とする。もちろん人脈もだ」

なるほど…そういわれると今までのリドルの様子は今の言葉に合っている。全てが全て、マグル抹殺のために動いていたんだ。

「だが、僕は君を助けたいと思った。利用しようとした君をだ」

いきなり好きだと告げられたさっきより落ち着いた声音でそれでも力強く言われるとどうにも恥ずかしい。顔に熱がこもるのが分かった。でもなんでリドルはこんなことを…

「君のために全力を尽くしたい。でも僕は、僕が考えていることは…」

「関係ないよ」

「…ナマエ?」

「リドルが今まで何をどう考えていたかなんて関係ない。今は私を助けてくれるんでしょ?」

にやり、と笑ってみる。だって図星のはずだ。自分で言ってて恥ずかしいことだって分かってるけど、1番恥ずかしいのはこんな弱っちい姿を曝しているリドルだってことを後からからかってやろう。だから、リドル、

「助けて」

「あぁ、君には敵わないな」

ようやく、リドルが少しだけ笑った。







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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)