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「じゃぁ、なぜ君は死んでないんだい?」







「え?」

先ほどまでの会話と噛み合わない科白にバッと顔を上げる。見ればいつものように穏やかな笑みを浮かべるトム・リドルは跡形もなくあからさまに不機嫌そうに眉間に皺をよせていた。

「えっと、死ん…、え?」

「なぜ君はバジリスクの瞳を見ても死んでいないんだって聞いてるんだ」

バジリスク…?なんだそれ。

聞いたことのない単語に顔をしかめるとリドルは馬鹿にするような溜め息をついて説明した。

「バジリスクっていうのは一般に神話上の生き物でその瞳を直視したものは命を落とすと言われている。直視でなくても体が石になるほどの威力がある」

簡潔で分かりやすい説明はやはりリドルが頭がいいことを物語っているようだった。そうでなくても、こんなことも知らないのか、とでも言いたげに喋るもんだから私がひどく馬鹿に思える(実際リドルからしてみれば私は馬鹿なのだろうけど)

「で、そのバジリスクが昨日の蛇?」

「それくらいは察しがつくようだね。そうだよ」

やっとわかったか、というように呆れたような表情を浮かべるリドル。ナマエもナマエで頭を整理しようとしているのか黙り込んでいる。

「え、私、え?普通死んでたってこと?」

「それが知りたくて僕がこうして呼び出してるのが分からないかい?」

リドルの額に青筋が浮かぶ。と、同時にナマエの顔も思いっきりしかめられた。

「ええっと、リドルさん、それって、私のこと殺そうとしてないですか?」

「今更?」

「……………」

あぁ、神様。どうかこの先生きていけますように。そう祈ることしかできない私は無力だ。(まだこの部屋から出れそうにない)

リドルの考えとしてはやはり私の目に何かあるとしか考えられないらしい。

「コンタクトもしてないようだし」

例えしていたとしても石になるはずなんだ、なんてさらっと恐ろしいことを言っている。

「開心術もしてみたけど秘密は何もなさそうだね」

ふーん、リドルはもう開心術なんてできるのか・・・

「っておいっ!」

ズビシッと効果音がつきそうな勢いでノリ突っ込みしたら、何?とこれまた盛大に眉間に皺をよせて返された。

「何、じゃねーよ。開心術ってなにしてくれてんのぉ!?」

「開心術使われてるのも気付かないなんて相当な鈍さだね。もう一度1年生からやり直した方がいいんじゃない?」

うぜぇぇぇ!なんだこの失礼極まりない言い方。今すぐにあの好かした面ぶん殴ってやりたいがそんなことをしたら後の祭り。殺されかねない(一回未遂なわけだし)。ここは大人になるんだ私

「それが懸命な判断だね」

「だから心読むなぁッ!!」




ようやくナマエも今自分がおかれている状況を理解しさぁ、もういいじゃないか、なんて考えていたがリドルは突然黙り込んでなんだか難しい顔をしている。

「(もう勝手に出ていこうかな…)」

クッキーも食べ飽き本格的に暇になってきたナマエはちらり、とドアを見つめる。正直意味も分からず殺されかけて本来なら、てめぇこの野郎、カエルチョコ卒業まで毎日貢いでもらおうか、くらい言ってやりたところだが、どうもそんなことを言えるような相手ではないことは理解できた。それは冗談にしても、今後もうあまり関わりは持ちたくない。いや、あまりじゃなくてかなり。ちらりとリドルを見てみると、私のことなんか眼中にない様子で、1人で考えてこんでいるわけだし私は部屋に帰ってもう一眠りしてもいいんじゃないかと思う。...そう思って腰を浮かせた瞬間私は今まで聞いたことのないセリフを聞いた。


「ナマエ、君、僕と付き合え」



私に拒否権はあるのだろうか…?








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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)