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久しぶりの我が家。今までの休暇でさえなんだか懐かしいなぁ、だなんて思っていたのだからこんなに立て続けに事があればそれは尚更だった。"ただいま"と言って玄関のドアを開けるのも、"おかえりー"という母さんの間延びした声も。(リドルを連れてきたのにはかなりびっくりしたらしく1人あたふたしていた)それまでは普通だったのに…。

「へぇ、リドルは主席の上にクディッチのシーカーまでやってるのか!すごいな!」

「ただの代理で出ただけですから」

にこにこと愛想の良い笑顔を浮かべるリドル。そしてさっきから楽しそうにリドルに話をする漆黒の髪に黄色がかった瞳の男。

「ナマエも出来た彼氏を捕まえたもんだな!」

「だから違うって言ってるでしょっ、父さん!」

そう、私の父。フウル・ミョウジその人である。ちなみに娘そっちのけでリドルに夢中である。(もうやだ、この親父…)
ちょっと前までシリアスな空気ばんばんだったじゃないか。いやいや、現在進行形のはずなんだよ。空気読めよ阿呆親父。

「……ナマエ?」

「はい」

「お前はいろいろと顔に出るのをなんとかしないといけないな。この先大変だぞ」

「……はい」

ス リ ザ リ ン !
何を隠そう父さんはスリザリンなのだ。最近になるまでどうにも納得いかなかったけど時折見せる、その、黒いような、そんなものがスリザリンを思わせる。何よりその瞬間、リドルと同じ空気を放つことに今気付いた。

それにしても、この状況。優雅にディナーなんてして終いにはリドルに酒まで勧める始末。そこはしっかり優等生を気取りやんわりと断っていたけど。とてもじゃないけど真面目な話をする雰囲気ではない。もう面倒だと思い話は明日にしようと、席を立とうとしたその矢先。


「ところでナマエ、休暇が早まったとは聞いたけど、その理由を聞いていなかったね」

「え?」

「そうだな、瞳の色が変わった、とかそんなところかな?」

リドルが息を呑むのが分かった。


「父、さん?」


「バジリスクには会った?」


知ってる。本当に何もかも。バジリスクが言っていたことが本当ならこの瞳もどうにかなる―――?


「父さん、私はこの瞳の力を消したい。普通の瞳に戻したいの」

「ミョウジさん」

「フウルで構わないよ」

どこまでもマイペースな人間だ。リドルは一瞬ぽかんとしたように父さんの顔を見、それからまた口を開いた。

「……フウルさん。元はと言えば僕の責任でもあります。僕がバジリスクと彼女を引き合わせました。」

「あぁ、そうか。君はもしかしてスリザリンの継承者?」


ぽん、と手を合わせ言う。まるでなぞなぞが解けた時のように。そんな簡単に分かるものなのか。父さんは一体どこまで知っているのか。同じことを考えている、とは言わなくてもリドルも困惑しているようでただひたすら父さんを見つめている。

父さんはグラスを空にしてから、にこりと笑った。



「昔話をしようか」








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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)