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「ナマエ、休暇が早まった。行こう」

「……うん」


あれから、ナマエはだいぶ落ち着いたが本人の意思で今まで医務室にいさせてもらっていた。食事もきちんと取るしこの通り応答もできる。ただ表情はないまま、だ。はめ直されたピアスのおかげか瞳は黒いままだがその色はひどく淀んで見えた。(ナマエを見つけたとき、ピアスをはめていなかった。アイリスという少女が石になったあの日何があったのかはまだ聞いていない。場もナマエの状態も万全とはほど遠かったからだ)


「じゃあ僕も荷物を取ってくるからナマエも一度寮に戻るといい。トレイン辺りがまとめておいてくれているはずだ」

「わかった」


1人にして、大丈夫だろうか……

一瞬そんなことが頭を過るが、かといって自分がいてもさして何も変わらない、とすぐに寮へ戻る足を早めた。


変わらない、というよりは、今のナマエはあまり僕と一緒にいたくないように思える。ナマエがアイリスを石にしたのを知っているのは僕とバジリスクだけだし、その後一気に増えた被害を起こしているのは紛れもないこの僕だ。彼女がそれを快く思うとは思えない。

だが、僕は間違っていない。














ざわざわと声が聞こえる。聞こえると言ってもそれは遠くで辺りは静かだ。まるで壁一枚隔てたような。

まともに歩くのは久しぶりだった。ずっと医務室に引き込もって、いたから。




寮へ向かうにつれ少しずつ人の声が大きくなっていった。グリフィンドール寮へと着いたところで、一瞬不安がよぎる。合言葉はまだ変わってない、よね?久しぶりで緊張してる?

違う、

アイリスを石にしたのは、




ガタッと音を立てて開く扉。そこからは私の大好きな綺麗なブロンドの髪、そしてよく通る声が響く。


「ナマエ?」

「サ、…ラ……」


アイリスを石にしたのは、私だ―――


「何て顔してるの?まだ具合悪いんじゃない?」

くすり、と呆れたように笑うサラ。いつもと変わらない。

「ほら、荷物はまとめてあるわ。リドルが待っているんでしょう?」

いつもと変わらないけど、サラは分かっている。私に何かあった、って。そうでなければあんな台詞は出てこないはずなんだ。ホグワーツ特急はサラとしか乗ったことがない。

――「ここ、空いてるかしら?」「あ、は、はいっ!空いてます!」「ふふ、私はサラ・トレインよ。あなたは?」――


「サラ、……」


あぁ、畜生。私はこんなに弱かったのか。馬鹿みたいに涙ばっかり溢れてただサラにすがり付くしかなかった。


「ごめん。……ごめんねっ、………ちゃ、んと…言うから。話す、から…」

「分かったわ。待ってる」

「サラ……大好き、」

「馬鹿ね」



そう言ってサラはまた笑った。







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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)