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「それにしても面白いものみたなぁ」

翌日、丁度いいのか悪いのか休日だったためナマエはいつもよりゆったりとした朝を迎えていた。しっかりパンとスクランブルエッグを食べた後だと言うのに、まだ紅茶と一緒にスコーンを頬張っている。そのときにポツリと呟いたのが冒頭のセリフである。


あのトム・リドルが女子トイレに、いたんだもんなぁ。別にスキャンダルってほどでもないけどなんか、すごいよね。こんなこと聞いたら女子の皆さんびっくりするだろうなぁ。まぁ、信じてもらえないだろうけど。それこそ何言ってんだてめぇ、とでも言うように袋叩きにあうかもしれない。(ホントになりそうだ、いや絶対なる!)想像しつ一瞬寒気を覚えくだらない考えをすぐに消し去った。そんなことより今日はどうしよう。生憎サラ(私の美人の友人)もいないことだし昼寝でもするか、と考えながら残りのスコーンを口に放り込む。


「おはよう、Ms.ミョウジ。ちょっと話があるんだけどいいかな?」

そして突然後ろから降ってきた聞き慣れない声。寝起き状態でだらだら朝ごはんをむさぼっていた私としては、なんの警戒もなしに振り向いてしまったのだ。視線の先には相変わらず昨日と同じ穏やかな笑みを浮かべているトム・リドルがいた。ちなみに女子の皆様の視線が痛い。

別に素直に従ってもよかったのだけれど、この時私は妙に嫌な予感がした。さっきまでのだらだらモードがなぜだか完全に吹きとんだのもあるし、食べたスコーンが珍しくコゲっぽい味がした。きっとろくな目に合わない、と何かがひしひしに私に伝えている。(リドルと関わると女子の皆様に何されるか分かんない、っていうのもある)後々私の勘は正しかったと分かるが、勘が当たっていてもすでにどうしようもなかった。


「今日はちょっと暖かい紅茶を片手に読書をしようかなと...」

「紅茶は僕が淹れてあげるから、読書は話の後でもできるよね?」

「え、あの…」

「じゃぁ、ちょっと来てくれる?」

なんだろう、この有無を言わさないような笑顔は。
なんか聞いてた話と違うぞ。
トム・リドルってのはもっとこう、…紳士な人じゃなかったのか?いや、確かに紳士っぽいけどなんか違う。
ナマエの思いを余所に連行されるがまま大広間を後にした。






「少し聞いてもいいかな?」

半ば強制的によく分からない部屋に連れられた。優雅に紅茶とクッキーまで出してくれた。でも実質、あのまま大広間にいればスコーンもクッキーも食べ放題だったのだけれど...。

「あ、はい」

とりあえず返事(そしてとりあえずクッキーをいただく)

「ミョウジさんっていつもああやって夜出歩いてるみたいだけど…」

「あー、うん。ほらホグワーツって知らない部屋とかいっぱいあるし。そういうリドル君は…」

「ミョウジさんって髪も瞳も真っ黒だから最初気付かなかったよ」

ごめんね、なんて笑っているけどこいつ...今おもいっきり話遮らなかった?...ま、まぁ気のせいかもしれない。なんてったって紳士と知られるトム・リドルだ。そしてリドルは続けた。

「綺麗な瞳だね」

「そ、そう?別にただの普通の黒い目だけど」

そう言うとリドルはじっとナマエの、瞳を見つめる。なんだこの熱視線的なものは。普通の女子だったら今頃ぶっ倒れているかもしれない。でもなんだかさっきから私に警告を発している何かが生み出す緊張感のせいで、もう、なんか怖いです!

「いや、綺麗だよ。もしかして何か特殊な能力とかある?」

「へ?ないよ。なんで?」

「聞いたことないかい?ナマエ#さんのような綺麗な瞳には特殊な能力を持った家系があるらしいんだ。だから気になってね」

ふーん、とだけ相槌を打ったがリドルはそれだけを聞くためにわざわざ場所を変えたのかな?こんな話なら大広間でもよかった気もするけど。
一杯紅茶を飲み終えまた一枚とクッキーに手をつける。一瞬、沈黙が流れた。あ、やばいよやばいよ。警報が、私の危機察知能力が、全力で警報を鳴らしている気がしてならない。視線を上げると相変わらずリドルを目があった。そう、さっきと同じ。だけど、その目は、ひどく……


ゆっくりとお喋りを楽しむような雰囲気が次の言葉であっという間に変わった。


「じゃぁ、なんで君は死んでないんだい?」





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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)