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だんだんと視界が落ち着いていく。徐々に徐々に、それは残酷にもはっきりと映し出されていく。

「こ、れは…」

色の変わった瞳は金色がかってはいるもののまだ黒い。それでもナマエが焦りを感じないはずがなかった。


「君にバジリスクと同じ能力が眠っているということだよ」



リドルの言葉が蘇る。忘れていたわけではない。だけど、出来るだけ考えないようにはしていた。


「その瞳を直視したものは命を落とす」


まさかまさかまさか………そんなことあるわけないじゃないか。たかが瞳の色が変わったくらいで。

食い入るように鏡を見つめていた視線を外し、そうしてバジリスクに向き直れば、ひどく悲しそうに、険しい顔をしていた。バジリスクが重たく口を開く。

「その進行は止まらないだろう」

一言一言が、重い。

「いずれ私と同じ力を得る」


あぁ、私がちゃんと向き合わなかったからだ。なんとかなると思ってた。巳族だとか言われてもなんの変化もなく時が過ぎていくと。

「しかし、まだこのピアスのおかげで少しは力を弱めることができるようだ。リドル、よくこんなものを見つけたな」

「あぁ。ある部屋から拝借した」

バジリスクは苦笑する。リドルの声音も些か固い。事が事なだけに仕方がないと、そう言い聞かせるしかないのだがまだ少女でしかないナマエにはショックが大きい。1つ、考えがないこともない。この状況を打破する考えが。しかしバジリスクは言うか言うまいか迷っていた。だから、一言だけ、

「父を、フウルを訪ねてみなさい」

「お、父さん…?」


バジリスクの言葉に働かない頭を無理矢理働かせる。そうだ、巳族の血を引いているというなら父さんか母さんが巳族ということになる。バジリスクが父さんの名前を口にしたのだから父さんなのだろう。

「バジリスクは、父さんを知ってるの?」

「……あぁ」

父さんとバジリスクがどういった関係だったのか、私のようにならなかったのか、いろいろ聞きたいことがあったけど、バジリスクがあまりにも辛そうに顔を歪めるものだからそれ以上は何も聞けなかった。それに、父さんに聞けばいいのだ。根拠はないけど、父さんは何か知ってる。そう思った。

「リドル、一緒に来てくれる?」

「…あぁ。こうなったのは僕のせいでもある。君の力は恐らくバジリスクに感化されたんだろう。出会わなければこうはならなかったはずだ」


力強いリドルの言葉になんだか安心した。
だけど、"出会わなければ"なんて、言わなくてもいいじゃないか。どんなに嫌なやつだってそういうことを考えるのはちょっと悲しい。

「よし、じゃあイースター休暇に父さんのところに行こう」

イースター休暇まであと半月ほど。それまでこのピアスでなんとかなればいいけど。今はただ進行が遅いことを祈るしかない。






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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)