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クリスマスの次は誕生日。毎年毎年同じように声をかけてくる女子生徒。僕は孤児院での扱いしか知らなかったから、なんの躊躇いもなく誕生日を教えてしまったけど今はそれを後悔している。最初こそなんだか妙な感じで、そう、僕は嬉しかったのかもしれない。僕の生を祝って貰えることが。でもそれは違う。(下心ばかりで)違うんだ。(上辺だけで)ただひたすらに否定した。何が違うのかも分からずに。(どうして下心や上辺だけではいけないのか、と自問自答を繰り返す)





朝、ナマエを捕まえた。なんともお気楽そうにしていたのが癪に触った。彼女にとっては今年最後の日、でしかないのだから。別に、誕生日を伝える必要もないと思う。とりあえず女子生徒に捕まらないうちに人気の少ない場所にでも行こうかと思ったけど、逃げられた。間抜けな嘘をついて。別に追いかければすぐに捕まえられたし、魔法だって使っても良かったんだ。だけど、そうまでして無理矢理つなぎ止めようとしているようで、そんな自分の愚かさに気付いて思わず溜め息をついた。





そうだ。何を馬鹿なことを。

他人のことを考えること自体ありえないんだ。ましてや誰かの生を祝うだなんて。人間なんてそんな愛しいものじゃない。
だから軽蔑した。今更取り繕うようにやってきたナマエを。別に取り繕う気なんかないんだろう。彼女が僕を祝う義務などないはずだし、祝われるような人間関係を築いてきたつもりもない。だけどそう思えてしまう。頭では分かっているはずなのに。それでもただ上辺だけの気持ちをひけらかしているように思えてしまう。彼女がそんな面倒臭いご機嫌取りのような真似をするとは思えないのに。


「ただ、リドルが生まれてきてよかったなって思っただけだよ」


また、綺麗事を。


「まぁ、リドルは俺様だし人のこと虫ケラみたいに扱うし真っ黒くろすけだし嫌味大好きだし猫かぶりだけど」

「君何が言いたいんだ?」

「たまに課題手伝ってくれるし、何だかんだいって紳士だしね」

「ねぇ、悪口の方が多いんだけど」

「え、あれ、やだなぁ。AHAHAHA」

「もう課題手伝わないから」

「えぇ、長所減るよ!?」

「(………)」







君は嘘をつくような器用な奴じゃないから、尚更驚いた。まさかこんなにも真っ直ぐに、その、誕生日を祝うなんて、思わなかった。本当に祝っているんだか分からないような言葉に温かいものが、ある、ような気がした。





こんな感覚、知らない。


だから少し居心地が悪い。







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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)