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はぁ、と溜め息を1つ。思わず周りを取り巻く本に目を向けた。よく分からない文字で書かれた書物が多く、明らかに使用頻度は少なそうな本たち。そんな図書館の奥の奥。やっと見つけたテーブルには埃がかぶっていた。
もともとホグワーツ散策が好きな私は(そもそもそれが原因でリドルに会ってしまったが)やることもないので散歩しながら行ったことのない場所を探そうとしていた。いくら周りを気にしないといえどあの視線に気付かない人がいるとしたら大物だ。まぁ、つまりは周りの女子生徒さんたちの冷ややかな視線がですね…。(きっとまたリドルが余計なことを口走っているに違いない)(ナマエは僕と一緒に過ごしたくないみたいなんだ。 まぁ、トム!あんな女のことは放っておいて私たちと過ごしましょう!、とか)(ありえる)チクチクと、いやザクザク突き刺さる視線に耐えきれず私はここ、図書館に逃げ込んだ。まぁ、図書館もリドルの行動範囲内だし、見つかった場合はもう腹をくくるしかないと思ってたけど、案外すんなり奥まで入ってこれた。かと言ってレポートを持ってきたわけじゃないしこんな意味不明な本を読むのはごめんだ。とりあえず、小説とか取ってこよう。小説は人気のあるところにあるからあまり近づきたくないけどさっと行ってさっと戻ってくるばいいか。


「トム、お誕生日おめでとう!これプレゼントよ」

「私はケーキを焼いてみたの」


………………っ!

あああ危ねぇっ!うっかり表に出ていくところだった!あの人たちの声がでかくて助かった。てゆかなぜ図書館でそんなやり取りを!?それにしても可哀想にリドル。絶対、うるせんだよ低知能共が、とか思ってるよ。(あ、でも私のせいか)
にこにこ笑って彼女たちと話すリドルはまるで別人だ。あくまでも紳士。なんか、変な感じ。まぁ私だって最近まで「心優しいトム・リドル」だと思っていたからね。あれが普通なんだろうけど。
もちろん私は巻き込まれる前に適当に本を取ってテーブルへと戻った。そして本を読みながら寝てしまったらしい。気付いたら夕方だった。首が痛い。






リドルたちの姿はもうなかった。(さすがにね)そしていよいよ今年も残り6時間強にもなって図書館にいる人はいないらしい。私以外図書館には誰もいなかった。(マダム・ピンスはどうやら午後は席を開けていたらしい。おそらくそのうち閉めに戻ってくるんだろう)(だからあんなに騒いでても大丈夫だったのか)



リドルはまだあの人たちといるんだろうか。にこにこ笑って、ありがとうとお礼を言って、心の中で見下して。

そんなのって、そんな誕生日って楽しいのかなぁ…。普通誕生日ってすごく嬉しいものなのに。ホグワーツに入る前は家族でパーティをしたなぁ、なんて思い出した。そういえば今日のリドルはやけに人形みたいに綺麗な顔ばかりしていた。(や、いつも憎たらしいくらい綺麗なんだけど、なんていうか…)





「君、まだいたの?」

「え!?」

びびびびっくりした!ぼーっとしてたから余計に。聞きなれた声のする方へ振り返るとリドルが呆れたような顔をしていた。(図書館にいたの気付いてたわけね)

「何をしてたか知らないけど、君の好きな夕食が始まるよ」

「………リドルは?」

「僕もこれから行くよ。返しそびれた本を返しにきたんだ」

ふぅん、とだけ呟くとリドルはてきぱきと本の返却の作業に入った。


「これからあの綺麗なお姉さんたちと夕食?」

「お姉さんって……年下もいるけど」

「えぇ!?まじでかっ!?うそっ、みんなナイスバディだったよ!?」

論点はそこ?と呆れたようにため息をつく。なんとも疲れたような、鬱々としたような。今日1日彼女らと一緒にいたから、というのは言わずとも分かる(普通羨ましいのにね!)

「あ!リドル、誕生日おめでとう」

「知ってたのかい?」

「あ、うん。き、聞いた…!」

「ふーん」

気にするでもなくリドルは手を動かしている。


「パーティーしようよ!」

「は?」


思わず口をついていた。そうだよ、パーティー!疲れたリドルに罪悪感を感じたわけじゃ・・・いや、うぞめっちゃ感じた。いつもよりしおらしい?大人しく感じるリドルに同情してしまった感じはある。でも、ちゃんと祝われなくちゃ。せっかくの誕生日なんだから。あんな仮面被った笑顔を振りまく日じゃないんだ。少なくとも今日は。

無理矢理例の部屋に連れて行って思いっきり杖を振りまくる。幸い私の成績は悪くはないので一通りの準備は体よく終わった。そしてアクシオで食べ物を引き寄せたら完璧っ!

「で、急になんなんだい?」

「え?」

「朝は脱兎の如く逃げ出したって言うのに今になって無理矢理連れて来たりして」

「うん、なんかよく分かんないんだけど。祝ってあげようと思って」

するとリドルの顔が一気に険しくなった。(顔というよりは雰囲気が)それはまるで何かを警戒するみたいに。

「祝って欲しいなんて言ってないけど」

口調こそ軽いノリだけれど。

「せっかく祝おうと思ったのにそんな言い方、」

「君も」


なんで、リドル。
なんで、そんな、悲しい目で…


「ナマエも、媚びでも売ってるつもりかと思ったよ」


どうしてこの人こんなにも嫌そうには誕生日を送っているんだろう。もっと誕生日ってほくほくしたような、わくわくするものでしょう?サラが言ってた。祝ってもらうのも嬉しいことだけど、こうして祝ってくれる人に出会えたこと。こんなに嬉しいと思えることができること。生まれてこれてよかった、って思う日だって。素敵な考え方だと思った。

それを思い出しながら、でもリドルにそんなこと言っても詭弁だと一蹴されてしまいそうで必死に空気がこれ以上重くならないことばかり考えていた。

「リドルに売る媚びなんてありませーん」

リドルは相変わらずいつもよりも険しい顔をしているし、私がいれた紅茶はまずという。
だけど、

「ただ、リドルが生まれてきてよかったなって思っただけだよ」


この気持ちだけは本当だから嘘偽りなしに伝えておこうと思った。


「まぁ、リドルは俺様だし人のこと虫ケラみたいに扱うし真っ黒くろすけだし嫌味大好きだし猫かぶりだけど」

「君何が言いたいんだ?」

「たまに課題手伝ってくれるし、何だかんだいって紳士だしね」

「ねぇ、悪口の方が多いんだけど」

「え、あれ、やだなぁ。AHAHAHA」

「もう課題手伝わないから」

「えぇ、長所減るよ!?」

「(………)」




(無垢な言葉ほど真っ直ぐに飛び込んでくるもの)






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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)