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学校徘徊はすでにナマエの趣味と化していた。この校長でさえ知り尽くしていないという無駄に広い城を探索するのはそうすぐに飽きるものではない。以前ふらふらと歩いていて妖精と出会ったり(幽霊はいるけど)360゜が宇宙のように星々で散りばめられた部屋に行き着いたこともあった。
それに比べれば3階の女子トイレなどなんのへんてつもない場所だが、普段他のトイレよりも利用する機会が少ないためもしかしたら何かあるかなぁ、などとほんの少し考えたりもしていた。







「………………あ」

まさか本当に"何か"あるとは・・・。


私はその場に固まって動けない。どうやらまさかの展開に思考が追い付いていってくれないらしい。ただ分かるのは最もこの場に似つかわしくない人物と最もこの場にいることが不可思議なものがそこにいるということだ。
その人物は私が入ってきた瞬間こそ警戒したような鋭い視線で、――それは..もう、殺気を感じるほどに・・・――睨み付けてきたがふっと微笑を浮かべると穏やかに言った。
「こんばんは、こんな所で会うなんて奇遇だねMs.ミョウジ。散歩かい?」

私は暢気にもあ、うん、なんていたって平凡な返事をした。そのやり取りの間にするするとさっきまで彼の横にいたものが移動してくるのを視界の隅に捉えながら。

「折角会ったけどお別れだ」

「へ?」

その瞬間、ヌッと目の前に現れた"それ"。万物を貫きそうな牙、頑丈そうなウロコを持つ皮膚、そして極めつけは残酷なほどに美しい金色の瞳――――


私は足元がふらつくのを感じたが体が言うことを聞かない。そのまま床へと倒れこんだ。

目の前の少年、リドルが笑ったような気がした。









「あぶなかったー!最近あんまし寝てなかったもんなぁ。今日休みだしたっぷり昼寝しなきゃ」

危ない危ない。立ちくらみだ。顔からトイレの汚い床に突っ込むところだった。寝不足のあまりふらりといってしまったらしい。私は間一髪で腕を前に出し自身を受け止めた。むくりと体を起こして目の前の少年――トム・リドル――と向き合う。
5年も同学年としてホグワーツにいて知らない者はいないであろう。成績優秀、容姿端麗、おまけに運動神経も抜群らしい。この3拍子揃っていることは認めよう。

「でもね、だからと言って女子トイレに入るのはやめた方がいいと思うよ」

言葉を発したっきり黙り込んでいるリドルを見かねてナマエは遠慮がちに口を開いた。そういうと、目の前の高スペック人間の顔がやけに真顔で固まっていることに気付き、しまった、と思うのだが何の返答も帰ってこないために、お…おやすみなさい、とだけ呟くように言って、そそくさと踵を返し歩いていく。



ナマエが去ったあともリドルはただ黙って彼女の背中を見つめていた。

「面白いじゃないか」

先ほどの穏やかな笑みとは一変して挑戦的にニヤリと笑う。リドルの横でシューシューと音をたてながら金色の主が佇んでいる。





(内緒で蛇飼ってんのかな?でもなぜ、女子トイレ……)



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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)