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「ふぁ…」

大きな欠伸を1つ。

余りにも適しすぎた温度は眠気を誘う。ましてやそこにパチパチという小気味ののよい音まで加わればその効力は絶大である。

「ナマエ……、」

「ん?」

「何回欠伸をする気だ。いっそのこと昼寝でもしてもらった方が、こっちも静かでいいんだけど」

リドルの口から"昼寝"を提案されたことに多少驚きを覚えつつナマエは頬杖をしてだらしなく座っていた体勢を一度起こす。

「んー、でもこの課題今日中に終わらせたいし」

「その課題の提出日はまだ先じゃないか」

「うん。でもまた別の日に手をつけるのが面倒臭い。あとちょっとだし」

そうは言うがナマエの目は明らかに起きておらず口調もどこか覚束無い。放っておけば先ほどからかくんかくんと首を揺らしたりもしていた。
ふーん、と気のない返事をリドルが返してから数分後、ナマエは机に突っ伏していた。






ちなみにここも空き教室の一角。空き教室と言うよりは空き部屋の方が適している。床は質の良い滑らかな絨毯で、ちょうどよい暖炉までついている。細かいアンティーク調の装飾が施されているのがこれまた趣味がいい。もちろんリドルの見つけた部屋だ。ナマエが自分の側にいられるよう配慮し埃の株っていたこの部屋を綺麗にして(とは言っても杖1振り)こうして使っている。側にいればいい、だなんて言いはしたが実際なかなか難しい。寮が別々なのだから。かと言ってナマエが寮から出る際にわざわざボディーガードのようにやってくるほどリドルは甘くない。だからこうしてこの部屋を使って課題を済ませたり読書をしたりして自由な時間を過ごしている。
割かしグリフィンドール寮から近い位置にあるためリドルはナマエに"走って来い(帰れ)"と言って移動の際の危険を省いている。(さすがに毎回送るのは面倒らしい)正直、ではリドルが一人でこの部屋にこもっていればいいじゃないか、とも思うのだが、リドルが女子に絡まれるタイミングと言えば、食事の時間であったり図書館を利用する際や廊下を歩いてるとき、などといった場面であるため、どこかに行く際にナマエが近くにいることは、リドルにとっても都合がいいということらしい。







わざわざここまでした自分はもっと感謝されるべきだとすやすやと気持ちよさそうに眠るナマエにリドルは視線を送った。

「(口開いてる…)」

なんて間抜けなやつなんだ。アホさが滲み出ている。こんな奴が巳族だなんてバジリスクも心外だろうに。思わずはぁとため息をついた。ちょうどいい、休憩にしようと読んでいた本を閉じ、杖を1振りする。直ぐ様ティーカップ、その中に香りよい紅茶が現れた。





彼女は、気付いているだろうか。その瞳の力に。恐らくまだ力自体は発揮されていないだろうし、効力も薄れているだろう。(もともと滅びたとされている一族だ。穢れた血が混ざりすぎている)それでもその能力を目の当たりにしたとき、彼女はどう思うだろうか。まさか喜びはしないだろう。それならグリフィンドールにいる意味が分からない。そう、彼女はグリフィンドールだ。きっと酷く恐れる(こんなにも魅力的な瞳を)


瞳を、閉ざしてしまう、かもしれない。
自ら、光を、たつかもしれない。


(どくんどくん)(あぁ、心臓の音がうるさい)





大丈夫。僕にはバジリスクがいる。彼女の瞳が使えなくなったとしても関係ない。

そう、関係、ないんだ。




(まるで自分に言い聞かせるようで嫌になる)







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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)