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「ナマエ?」

「……や、やぁリドル」

すっかり忘れていた。図書館はこいつのテリトリーだった。図書館へ向かう廊下でリドルにばったり出くわしてしまった。それにしてもリドルと知り合う前は、こんなに遭遇しただろか。いや、リドルが故意にこっちに来るってのもあるけど。不幸だ。

「ふーん。僕とのお茶を断っておいて君は優雅に読書かい?僕が騒ぎ立てることしか知らない馬鹿な女共の相手をしていたときに」

「ちがっ…!サラとのお茶はホントだって。今ちょうど切り上げて図書館に…」

「言い訳にしか聞こえないな」

こ の 野 郎 … !

「今日の代わりと言っちゃなんだけどクリスマスは僕から離れるなよ」

クリスマスクリスマス…。なるほど。恋人たちの大事な行事だものね。片時も離れたくないって?あはは、照れるー!と脳内で考えてみても真顔で、というかむしろ顔を顰めたいのが滲みでているかもしれない表情でリドルを対峙している自分。とてもシュールです。

「そんなに嫌なら言えばいいじゃん。目障りなんだよクソが、って」

「僕はそんな汚い言葉は遣わない」

突っ込むとこそこかよ。確かにリドルは汚い言葉でなく怖い言葉を使うもんね。

「頭の悪いやつでも手なずけておけば何かの役にたつだろ」

「はぁ…」

こいつの思考にはついていけない。ついていきたくもないけど。
でももうクリスマスなんて話が出る時期かぁ。時間が経つのは早いなぁ。うん、クリスマス。え?クリスマス?

「つまり冬はホグワーツに残れと?」

「だからそう言ってるだろう」

お母さん、ごめん。
家族の数少ない行事に参加できそうにない…。








そんなやりとりをした数日後だった。

――図書室――

「ねぇ、トム。もうすぐクリスマスよね!」

「あれ、もうそんな時期だっけ?」

すっとぼけるのも大概にしろ。

「そうよ!だからクリスマスの日は、その、よかったら私と…」

「そうかクリスマスかぁ。ナマエと過ごす初めてのクリスマスだな」

そうやってにっこりと純粋無垢な笑顔を女子生徒に向けてるトム・リドルを呪いたくなった。


リドルの言葉を聞いた途端2、3こしか席の離れていない私へと鋭い視線が送られた。くそぅ、そんな話違うところでしろよ!ここは図書室ですよ!?何度頭の中でそう唱えても次から次へとやってくる女子生徒は後を絶たない。

イライラする気持ちやら睨まれるのに落ち着かずそわそわするやらで一向にレポートが終わらない。せっかく今回は期限ギリギリでなく終わらせようと決意したと言うのに!だめだ。今日はもうやめにしよう。1度集中力が途切れると中々再び集中するのに時間がかかるのは自分がよく知っている。仕方なく私はさっさと荷物をまとめて図書室を出た。リドルはまた違う女子生徒に言い寄られていたようだ。


「あら、ミョウジさん」

「………こんにちは」

何事だ。私が見知らぬ美人スリザリン生に声を掛けられるなんて。いや、正直何かは予想はつくけどね。原因はすべてあいつだ!

「あなたはクリスマス休暇はどうなさるの?」

「はぁ、普段なら家族とチキン食べてケーキ食べてシャンメリー飲んで…」

「そう。素敵なクリスマスを過ごしてているのね」

そう言ってにっこりと笑う。柔らかい物腰で話してはいるようだけれど次に出てくる言葉は開心術するまでもなくバレバレだ。帰りたい。


「でしたら今年も?」

こうくると分かっていても返答には困った。

「えーと、今年はたまにくらいホグワーツに残って過ごそうかなぁ、なんて」

「あら、どうして?ご家族が悲しむわ」

もちろんさ!悲しんでいるよ私の家族はぁっ!くそぅ、やっぱりすべてあいつのせいだ。こんな回りくどい誘導尋問みたいな会話をしているのだって。

「トムと過ごすために?」

明らかに空気が変わりました。こんなことになるんじゃないかと思っていたけど。


これはあれだな、うん。
空き教室or女子トイレへLet's go!パート2!






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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)