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いきなり巳族だなんて説明されて、そう簡単に受け入れられるはずがなかった。バジリスクと同じ能力を持つかもしれない、なんて言われれば尚更。
今まで蛇の思うことが分かったりはしなかったのに。受け入れるのが嫌で、それをリドルに言ったら、「恐らく血が同調したんだろう」と淡々と返されてしまう始末。"血"なんて言われてしまえばはぐらかすことも誤魔化すことも出来ない。どうしようもない。考えないようにしていた思考が私の中で渦巻いていた。



「ナマエ!」

「え?」

「もう、どうしたの?ぼけっとしちゃって。授業はとっくに終わったわよ」

ハッと顔をあげればサラの言う通りで、教室に残っている生徒はもう私たちしかいなかった。

「ごめん、ぼうっとしてた」

「そうみたいね。今日はちょうどこれから授業ないんだしゆっくり休んだら?」

「………うん」


サラに相談しようかって考えた。恋愛脳なところはあるけど、サラ本当に親身になってくれるし何より頭がいい。きちんと今の状況を踏まえてアドバイスなりしてくれそうだ。だけど、そんなことをしたらリドルに目をつけられてしまうかもしれない。普段はくそ野郎としか思わないけれどやっぱりあいつは危険だ。冗談ではなく私を殺そうとしていたんだし。やっぱり打ち明けることはできない。

「あ、そうだ。前はナマエが彼のところに行っちゃったせいで出来なかったし今日お茶会しましょうか!」

「本当!」

「えぇ」

にっこりと微笑むサラになんとなく安堵する。やっぱりこのことは言うべきじゃないな。サラにまで難しい顔されてたんじゃ本当に気が滅入ってしまいそうだ。

先ほどより幾分か気分はよくなり、サラとのお茶も楽しみで私たちは嬉々として寮へ向かった。





「ところでリドルとはどこまでいってるの?」

「ブッ!」

「ちょっとナマエ!」

エイミーの作ったケーキが最高だったとか、提出期限の迫ってるレポートの話だとかそんなことを一通り話し終えた後だった。ちなみに私は盛大に紅茶を吹きだした。

「どこまでって、別に何も(仮なわけだし)」

言うとすればすでにお呼びだしはくらいました、とか?次は陰湿な嫌がらせとかかな?お呼び出しパート2とか…もう考えるのもいやですね!

「そうなの!?へぇ、意外ね。なんだかリドルって手が早そうだと思ってたから」

あながち外れてないとおもうけどね。すでに2回ほど殺されかけてますからね。

「でもリドル、最近楽しそうよ」

「そう?(そう見えるように振舞っているんだろうなぁ)」

「えぇ。以前より生き生きしている気がするもの。特にナマエといるときはね」

そう言ってサラはウインクする。

「…そ、そっかなー?」

「えぇ!」


それは多分、唯一猫をかぶらなくてよく、尚且つストレス解消と言わんばかりに私をいたぶれるからだよ、とは言えなかった。

そのままくだらないお喋りをして、私が図書館に行かなければならないためにお茶会はお開きとなった。借りていた本の返却日が今日だった。




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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)