18 

「ナマエ、どこに行くんだい?」

「……寮に戻ってお茶でもしようかと」

「じゃあ僕と一緒しないか?」

「いや、今日はサラと約束してるから」

「ふぅん。最近ナマエはそればっかりだね」


これ見よがしにしゅんとしないで下さい!

ここは大広間。つまり周りにたくさん人がいるわけで。

「何様のつまりなの、あの女。リドルの誘いを断るなんて」

「彼女だなんて信じられないわ」

「それもしかして間違いじゃないの?」


リドルはこれを狙ってやっているに違いない。わざと断りずらい状況でこうして尋ねてきてるんだ。私が巳族だと分かってからというもの、リドルは執拗に関わってくる。何を考えているのか分かんないけどとにかくリドルの画策に嵌まらないようにしなくちゃ!

「ナマエの好きな紅茶を新調したんだけどな」
「行っきまーす!」

大丈夫、嵌まってない。うん。







「君、本当に単純だね」

「単純じゃなかったらここにいないんだけど。それってリドル君的にはよくないんじゃないかな」

「単純だと分かった上で言ったんだからこれが必然なんだよ。それにもっと賢かったとしても其なりの対応を考える」

リドルに口で勝とうなんて考えてないものの、かと言って大人しくしていることもできない。いらっとする気持ちはあるけど、出してもらった紅茶がおいしくてプラマイゼロだ。

「なんで私をお茶なんかに?」

リドルもまた紅茶を飲む。そんなちょっとした動作でさえ様になるというか、さすが顔がいいやつは違うなとぼんやりと考えていたりもした。

「君をものにするためには僕の側にいた方がいいだろう?」

「……………」

まさにそれが嫌がらせに感じていることに、こいつは気付いているんだろうか。これ見よがしにチョコレートまで並べやがって。何これ、餌付け?
とりあえずせっかくあるんだしチョコを一粒摘まむ。黙々と食べて黙々と飲む。あれ、お茶って"紅茶"、"お菓子"、"お喋り"っていうものがセットだと思ってたんだけどこの空気なんなんだろう。

「リドルって孤児なんだってね?」

「それが?」

話題提示失敗。
なんか睨まれた。なんで私がこんな気を遣ってるわけ?意味わかんなくない?

「別に。寂しくないのかなって思っただけ」

「寂しい?そんな感情知らないな」

はんっ、と鼻で笑い飛ばしそうな勢いでリドルは言った。


「それに今はナマエも居てくれるんだろう?」


にっこりと言って見せるリドルはやはりイケメンだ。狙ってやってるんだよね、って一度自分の中で確認。どんなにイケメンでもこの理不尽な状況ではそう簡単にときめいてやらないんだからね!






[20/62]

index


Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)