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「落ち着いたか?」

「…うん」

ちょうど出されたホットミルクを飲み終えた。こんな秘密の部屋でほのぼのとしたホットミルクを飲んでいるなんて変な気もしたけどやっぱりホットミルクは偉大だった。(つまり、落ち着けた)まさかリドルがホットミルクなんて気の利いたものを出すとも思っていなかったけど。




あの後、しばらく私の意思とは関係なく涙が溢れ続けた。そのうちに私は何がなんだか分からない気持ちでいっぱいになって、一先ず場を落ち着けるためにもリドルがバジリスクを引っ込めてくれたのだ。(意識がだいぶ朦朧としといたから多分、としか言えないけど)

コツ、コツとリドルが一歩踏み出す度に小気味のいい音が響く。きっとまた何か考えているんだ。難しい顔をしている。


「言っておくけど、知らなかったんだからね」

何か言われる前に釘を刺したら嫌な顔をされた。

「じゃあ、何にも知らない君にちゃんと分かるように説明しよう」

嫌味ったらしい言い方が気にくわないけど(しかも人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべている)、これは知っておかなくちゃならないことだから私は大人しく口をつぐんだ。

「巳族は本来、滅亡した一族だ。それに人前に出て暮らしていなかったから情報も少ない。それでも唯一分かっていることが、その名の通り蛇の血を引いているということ」


――――蛇の、血…――


まだしっかりと理解しきれないでいる。それが分かってかリドルはさらに続けた。

「それも幻と言われる、このバジリスクのものだ。この意味がわかるかい?」

そうか。もしリドルが言うように私が巳族なのだとしたらさっきのおかしな現象も説明がつくかもしれない。バジリスクの瞳を見て死なないことも。

でもそれって……。


「君にバジリスクと同じ能力が眠っているということだよ」

私は最初リドルの言葉をすぐには理解できなかった。したくなかっただけかもしれないけど。訝むように顔をしかめている私とは反対にリドルは妖艶な笑みを浮かべている。その裏には少なからず憎しみが隠されているのも忘れてはいけない。

「ナマエ、君は僕と一緒に在るべきだ」

スッと差しのべられた腕。余りにも滑らかなその動きはまるでミュージカルか何かの様だ。そしてそれがさらに恐怖心を煽る。私は思わず一歩後ずさった。

「グリフィンドールっていうのが癪だけどね。ナマエならそこも目を瞑ろう。幸い僕の周りにいる女のように馬鹿じゃないみたいだしね」

「い、やだ」


確かに発した拒絶の言葉。なのにリドルはクスクスと笑った。


「そう言うと思ったよ」


それからリドルは後ずさる私の腕を無理矢理掴んだ。


「必ず僕のものにしてみせよう」


映画のワンシーンの口説き文句のような台詞。それなのに馬鹿にできない雰囲気を纏っていて、見上げた紅眼はやっぱり妖艶だった。





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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)