16 

何がしたいのか分からないリドルとの会話は非常に困難である。ついさっきの出来事からも分かるように気紛れでいつ殺されるか分かったもんじゃない。今だってそうだ。何を考えているやら一心に私を凝視してくる。

「君、本当に何も隠していないんだな?」

「隠してないってば!」

例えあったとしてもリドルの凄みに耐えきれずさっさと話しているだろう。(ザッツチキン!)

「確かに、君は嘘をついても顔に出そうだしね」

「うふふ、それって馬鹿にされてるんだよね?」

「バジリスクが何か感じ取っていた」

スルーかい。

「具体的に何を感じ取ったのかは分からないけど。君に何か関係があるかもしれない」

バジリスク。普通は恐怖の対象とも言われる幻の生き物。でも実際に見たバジリスクは吸い込まれるように美しい双眼で凛々しいいでだち。(普通は見ることができないと思うと私はラッキーだなぁ)初めて見たとき私は恐怖とは程遠い気持ちを抱いていた。バジリスクもこんな気持ちだったのだろうか?(そもそもバジリスクって感情表現するんだ)

奥の方からザーザー、と這う音が聞こえてきた。噂をすれば、とはよく言ったもんだ。

そして声が突然響く。



――我が同志よ――――



「え?」

これは……。


――待ち侘びた。我が血をひく者よ―――――



頭に直接響いてくるような声。困惑してリドルを見ると、リドルもまた訝しむ表情を浮かべて私を見ていた。

リドルにこの声は聞こえてない…?

ゆっくりとバジリスクがこちらへと向かってくる。リドルは未だ訝しむ表情を浮かべたまま何も言わない。バジリスクがリドルの脇を通りすぎようとしたときすかさず制止させるようにスッと腕を伸ばす。(その後、空気の抜けるような音がしたから何か命令したのだろう)

しばらくリドルがバジリスクと何か話してから、1度リドルが大きく目を見開いた。リドルの顔に確かに憎悪の色が浮かび始めながら。


「お前が巳族……!」


空気が凍りついている。

動けない。

瞳さえも。

喋れない。
呼吸さえも覚束ず。


巳族――――?


―――君は私の血を引いている―――


あぁ、この声ははバジリスクだったのか。なんでだろう、こんなに恐ろしいいでだちをしているのにすごく温かくて懐かしい思いがする。




私は頬に涙が伝うのに気付かなかった。





[18/62]

index


Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)