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シャーリーたちのおかげで1限の魔法史は結局さぼることにした。中途半端に出て先生に小言を言われるのも嫌だし。リドルも同じ考えなのか、こうして一緒に図書館にいる。別に一緒にいる必要もないのだけれど私は近々提出の課題を、リドルは何やら怪しい本を読むためにここにいた。

「……ねぇ」

私が声をかけるとリドルはあからさまに煩わしそうに目を細めた。まだ何も言っていないのに何を言うのかわかっているようで居心地が悪い。もう声を掛けてしまったので言うしかないわけですけど。

「リドル、魔法薬学教えて」

「僕が忙しいの、見て分からない?」

ピシャリと、それも嫌味ったらしく返された。素直に教えてくれるとは思っていなかったけど、こうもあからさまだと腹が立ってくる。

「いいじゃん。私がリドルを女子から守ってるようなもんなんだし。そのお礼としてさ」

「まだそう日も経ってないだろ。それに、そんなこと言うならもっとしっかり働いて欲しいものだね」

「働くって………。ちゃんと彼女の肩書き背負ってるじゃん」

ついさっきもそのせいで呼び出しを食らったというのに。まだ何かしろっていうのか、こいつは。それならもっと優秀な人に頼んで下さい、と憎まれ口の1つも言ってやろうと口を開いた。が、その台詞はリドルの声となって発せられることはなかった。
するりとリドルの腕が伸びてきてナマエの顎を捕らえる。そのまま縮められるナマエとリドルの距離。


「……これくらいでその反応じゃ困るんだけど?」

「……………」

黙り込んだナマエはキッときつくリドルを睨み付ける。

「顔真っ赤だよ」

「……うるさい」

顔を真っ赤にしているせいで迫力はないが。リドルはナマエの予想通りの反応に満足したのかくすり、と笑ってからまた本へと視線を戻す。あまりにもリドルが余裕で、人を弄ぶものだからつい心の中の声が漏れた。

「こんのくそ野郎……」

「そんなことばっかり言ってると本当にキスするよ?」

「…………!」

耳ざとく聞いていたリドルは落とした視線を上げる。それが、目を細めてまるで本気みたいに言うもんだから私は何も言うことができなくなった。
(僕はいつでも本気だよ)
(ヒィィィィッ!)






コツン、コツンと指先で机を叩く。叩くと言ってもそれはどちらかと言えば無意識のうち。それでも向かい側の距離では些細な音も嫌でも耳につく。始めの方こそ我慢していたもののリドルは思いっきり眉間に皺を寄せて顔を上げた。

「うるさいんだけど」

「うー………」

うっとおしい騒音を立てる張本人ナマエは、一応リドルの言うことが耳に入ったのだろう。すでに一定のリズムを刻んでいた音はしなくなったが代わりに##name_1##の呻き声がリドルの集中を妨げた。

「まだそのページやってるの?」

「だってー……分かんないんだもん」

ハァとリドルが溜め息をつく。いつもの調子のナマエなら馬鹿にしてくるリドルに悪態をつき始めるところだが、よほど苦戦しているらしい。ナマエの視線は延々と教科書と本の間を行ったりきたりしている。

「183ページ」

「は?」

顔をあげるとリドルが哀れむような視線で私を見下ろしていた。(あれ、同じ高さの椅子に座っているはずなのに)(この格差は一体!)

「183ページにその調合の基本的なパターンが載ってる」

「え?」

言われた通りにページをめくっていくと、さっきまでに何度か見たページに辿り着いた。いや、このページなら見たよ。それでもよく分からなかったのですが…。
ゆっくりと視線をリドルへ向けると、あぁやっぱり。哀れまれてる私。こんな問題にこんなに時間かけても解けないのか、可哀想に。って!

「そこに載ってる調合パターンとその問題の調合はほとんど同じだ。材料を教科書の方に見立てていけば分かるだろう?」

「ど、どれがどれに見立てればいいのかさっぱり……」

「だから、」















「で、できた!」

おおお、すごい。さすがリドルだ。この膨大な数の生徒のトップに立つだけある。優秀な人間としての性なのか、リドルは私がきちんと理解するまでみっちり教え込んだ。優しいとは言えないけど。(むしろスパルタ!)でもこれで授業中あてられたりしても大丈夫そうだ。

「全く。君がこんなにも魔法薬学がだめだとは思わなかったよ」

「まぁ、うん。魔法薬学だけは苦手で…」

「でも今日で苦手じゃなくなっただろう?」

そう言って得意気にリドルはニヤリと笑う。全くこいつは。自分にできないことなんてない、と思っていやがる。私に魔法薬学を叩き込むことも、周りから本性を隠すことも。あ、絶対こいつ将来ひねくれたやつになるだろうな。


「……ありがと」


そんなリドルの完璧主義のおかげでレポートも終わったんだし、よしとするか。





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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)