10 


言っておくけど、もし僕に隠しているようなことがあったらそのときは分かってるよね?なんてにっこり微笑まれて何か言えるはずもない。そしてリドルは言うだけ言うと早々にナマエを部屋から追い出そうとした。

「ストップストップストーップ!」

さぁ、どうぞさようなら。とでも言うように開かれたドア。しかしそこを易々とくぐるわけにはいかない。

「リドル、わかってんの?今ここではい、さようならって出ていった場合の私の運命を!」

出ていくのを拒んだナマエを煩わしげに一瞥したかと思いきや、突然にこりと胡散臭い笑みを作るリドル。

「さぁ、分からないな。それに興味もない」

わざとらしくしらばっくれている。ここまでくるといっそ清々しい。なんて、そんなことを思っている場合じゃない。またこいつのいいようにされてたまるか!

「無責任だ!こんなところまで連行しておいて」

「連行?人聞きの悪いこと言わないでもらえるかな?君が勝手に昼食が食べたいって言ってついてきただけだろう?」

ひどい!この冷徹男め!そりゃたしかにそういう風にもとれるけどさ。なんつう解釈するんだこいつは。
必死の頼みの末、とりあえずグリフィンドール寮までついてきてもらった。ものすごく嫌な顔をされたのは言うまでもない。しかしこれで今日は(強調!)あの女子の皆様に捕まらなくてすんだ。機嫌が麗しくない様子で前を歩くリドルを見てナマエはほっと胸を撫で下す。

「ナマエ?」

「サラ!」

グリフィンドール寮が近づいた頃、ブロンドの髪を揺らす少女、ナマエの親友のサラに出くわした。もちろんそれに気づくや否やリドルはさっきまでの機嫌の悪さはどこへやら。愛想のよい笑みを浮かべている。

「どうしたの、今日は?珍しく寮でぐうたらしてなかったのね」

「いやぁ、それが...」

ナマエが思わず視線を反らすと逆にリドルがスッと前に出た。

「やぁ、ごめんね。今日1日僕が彼女を連れ回していたんだ」

「リドル?」

「君は、サラ・トレインって言ったっけ?」

「えぇ。話すのは初めてね、トム・リドルさん」

美男美女とはまさにこういう二人のことを言うんだろう。まるでドラマのワンシーンのようだ。

「でもナマエとリドルが知り合いだったなんて知らなかったわ」

「そうかい?確かにまだ親しくなってそんなに経ってないかもしれないな」

そんなにってまだ1日も経ってないんですけど!?

ズビシと言わんばかりに突っ込んでやりたい。しかしそんなことができるはずもなくナマエはただ黙って二人のやり取りを聞いていた。

「まぁ知りあってからの時間なんて関係ないさ。ね、ナマエ?」

「は、はぁ……」

急に話をふられたと思えばグイッと肩を寄せられる。恥ずかしいのとびっくりしたのとで軽くパニックなナマエだがそんなときでも、あぁこの場にいるのがサラだけでよかった、なんて思っていた。


「僕たち付き合うことにしたんだ」

「そうなの!?」

「え、あ、うん。まぁ、そんな感じかな」

にへら、と適当に笑って誤魔化す。確かに嘘じゃないが嘘をついているようでならない。親友のサラにこんなことを言うのは正直気が進まないが仕方ない。(だってリドル怖いんだもん!)

「そう、おめでとう!たまには私の相手もしてよナマエ」

「あはは」

あぁ、良心が痛む・・・。

「じゃあ僕はここで失礼するよ」

「あ、うん。ありが……」

「じゃあね」

リドルはスタスタと歩いていった。残されたナマエはというと額を押さえて呆然と立ち尽くしている。

「ちゃんと寮まで送ってくれるなんて紳士ねぇ。……ナマエ?」

ヤツは紳士なんかじゃないよ、サラ。そう言ってやりたかったけどその時のナマエの口は開いたまま動かなかった。

「何よ、額にキスされたぐらいで」

「ぐらいって!」

慌てて抗議するもサラはクスクス笑ってさっさと寮に入っていってしまった。




[12/62]

index


Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)