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初めて足を踏み入れるスリザリンの寮。本来なら地下なんて陰気臭いだの適当にぐちぐち言ってやりたいところだがそんな余裕はナマエにはなかった。


ヒィィッ、痛い痛い!視線が痛い!もうダメだ。明日、いや今日リドルのそばを離れたその瞬間、スリザリンの女子生徒の皆さんにご機嫌よう、とか言われちゃうよ。そのままトイレとか空き教室連行だよ!あれ、これすでにリドルにされてるし。ははは、まさか1日に二度もそんな目にあうとは。
うん、だからね………


手を離してください!


もう半泣き状態である。寮内に入った途端リドルに促され、なんでかちゃっかり腰に手まで回してくれちゃっている。愛想のいい笑みを浮かべているのがよりいっそう私の鳥肌をたたせていた。そして絶対に声がかかると思っていた女子の皆さん。

「トム」

「やぁ、シャーリー」

「その子、なんなの?しかもグリフィンドール生じゃない?」

そう抗議するシャーリーと呼ばれる女子生徒。きっと普段はニコニコとリドルに愛想を振り撒いているんだろう。今も極力怒りを顔に出さないようにしているが眉間の皺が隠しきれていない。私は、目があったら絶対睨まれると思い突き刺さる視線を敢えて無視した。
そしてリドルがこれまた愛想のいい声で口を開く。

「僕の恋人なんだ。少しだけ部屋に入れても構わないかな?お昼がまだなんだ」

やっぱりダメかな?としゅんとしてみせる。やばいこいつ俳優になった方がいい。きっと伝説になる。周りも周りで、ちょっと悪戯したようなリドルがかわいいなどという声が聞こえだいぶ空気が和らいだ。突き刺さる視線に変わりはないが。
シャーリーも何も言えなくなったようで思ったより簡単にリドルの部屋へと通された。

「傑作だな」

部屋に入るなりこれだ。クックッと喉をならして笑うリドルは最低にもほどがある。

「君、きっと今日呼び出されるよ?」

「わかってんならあんなことするなァァッ!」

「叫ばないでくれる?他の人に迷惑がかかる」

私に迷惑がかかるのはいいのかよ!とも思ったが、別にどうだっていいに違いない。てゆうか他の人って誰だ。そんな配慮する相手いないくせに。とりあえず、無駄に頭のいいリドルに口で勝とうなんて思わない私は早速昼食にありつくことにした。もうおなかがペコペコだ。"いただきまーす"と言ってクロワッサンをほうばっている私と反して、リドルは何やら難しい顔をしている。

「それにしても、君の家には屋敷しもべ妖精がいたんだね」

あぁ、その話か。厨房でも何か考えるように黙って話を聞いていたリドルを思い出した。

「私は覚えてないけどね。いたことも知らなかったし」

「もしかしたらやっぱり君の家系には何か秘密があるのかもしれないな」

「なんで?」

もごもごと口をいっぱいにしながら尋ねると、リドルはわざとらしくため息をついた。その表情はやはり人を小馬鹿にしたようなものだ。

「屋敷しもべ妖精がいる家系は由緒正しいものが多いからだ。そうでない家系もあるけど、可能性として前者を考えるのが妥当だろう」

「へぇ」

ぶっちゃけあんま興味ない。あぁ、やっぱりホグワーツの食事は本当においしい!学校案内のパンフレットがあるものなら見開きを使って食事がうまいと表記してもらいたい。
まぁ、とにかくリドルは私がなんで死なないのか気になってしょうがないらしい。遠回しに死ねって言ってるよな、これ。リドルはリドルで生返事を返した私を馬鹿にしたのかなんなのか一瞥してからようやく昼食に手を伸ばした。悔しいがナイフとフォークをもつ手は優雅で、ただの食事だっていうのにリドルは様になる。目の保養だ。こうして黙っていればかっこいいのに。そう口を動かしながらリドルを見ているとふいにリドルは顔をあげた。

「君、もう少し上品にできないのかい?いくら魔法で片付けるって言ってもそんなに食い散らかされると不愉快だ」


黙っていればなぁ…。





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Things base and vile, holding no quantity,
Love can transpose to form and dignity.
Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(A Midsummer Night's Dream / William Shakespeare)