04それはまた、なんの変哲もない日だった。いつも通りバイトをして。なんか結構忙しくて疲れたな、なんて思いながらとぼとぼ歩いて。こちらを振り返った氷室くんを見て手を振って。いつものように帰路についていたのだ。
そのまま彼はいつものように練習に戻ると思いきや、今日は何やら難しい顔をしてこっちに歩いてきた。
「どうかした?」
「苗字さんこそ」
「え?」
「足、どうしたんですか?」
足、と言われて一瞬首をかしげる。とくにいつもと違った様子はないけど、と思いはっとする。そういえば、大したことではないけど若干足を捻ったのだ。そこまで痛くないし寝れば治るレベルだと思う。ぶっちゃけよくあることだ。そのせいで足と言われてもすぐに分からなかった。
「ちょっと捻っただけだよ。ってゆうかなんでわかったの?」
「ヒールの音のリズムがおかしかったので」
「な、なるほど」
よく聞いてるもんだな、と本当に関心する。すごい。こういう気配りっていうか気がつくのって大事だよね。私もすごくそのスキル欲しいわ。
「大丈夫ですか?」
「ん?あぁ、大丈夫大丈夫。よくあるし」
「………明日バイトは?」
「あるよー」
「なら、湿布とか貼っておいた方がいいですよ」
「でも、湿布ないんだよね」
一人暮らししていると使わないものは一切ない。もともと体も強いから前に熱を出したときなんかは本当に困った。絆創膏とかならともかくさすがに湿布は持ってない。
「手当、しますよ」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ!ほっとけば治るって」
そう言って不服げな氷室くんと別れて3日が経った。
「苗字さん?」
「ん……?何か……」
「悪化してません?」
氷室くんの仰る通りであった。歩く分には気にならなかった痛みがじわじわと強くなっていって、坂道が負担に感じ、今軽く引きずってしまっている。
「だから言ったのに…」
「うぅ、だってこんなことになるとは」
「明日の朝、簡単に固定します。大学行く前に、ここ寄れますか?」
「え、でも、いいの?」
「このままじゃ悪化してしまいますし。あ、医者にはちゃんと行って下さいよ」
「はーい」
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