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もうすぐ21時。まだ秋もはじまったばかりだけれど、秋田の夜はこの時間でも十分冷える。アパートへの道は少し街灯が少ないけど、星がよく見えて綺麗だ。はぁ、と息を吐いてまだ白くならないことを頭で受け止めながらオリオン座を眺めていた。

大学に入ってからというもの、勉強よりもバイトが本分なのではと錯覚してしまうくらいバイト三昧の毎日だ。今日みたいに日付が変わってしまってからアパートに帰る、なんていうのもよくあること。それが疲れないなんてことはなくて。今日も、少し鬱なテンションだったりする。

帰り道唯一ともいえる、ひどく明るい場所がある。小さな公園でバスケットゴールとブランコだけが申し訳程度においてあるのだ。そこだけはライトがいくつか設置してあって星空を眺めていた目を暗ますのは十分なくらい。

ダンッ、ダンッ


急に聞こえた、音。たぶんその公園からだ。音からしてボールをついているんだろうけど、いかんせんこの時間だ。少し、怖い。カツアゲとかされたらどうしよう。かと言ってここを通らずにアパートに帰る道はない。そろそろと身を縮こまらせつつ歩みを進めていった。

「(で、か……)」

目に入ったシルエットは明らかに男性で、それも恐らく日本人男性の平均身長は上回っていると思われる背丈。ますます体が緊張する。

スパッとボールがゴールに吸い込まれていった。思わず見惚れてしまいそうになったけど、そのボールが向かう先に度肝を冷やすことになる。

ゴールから落ちたボールはそのまま地面についてバウンドし、あろうことかこちらに向かってきたのだ!

しかも!足元に転がってきたボールを思わず手にとってしまった私は馬鹿なの!?「すいません!」と例のシルエットの人がこっちに向かってくる。うわわわわわ、どうしよ絡まれたらどうしよ。

「ありがとうございます。ボール取っていただいて」

「あ、はぁ……」

予想外に優男だった。いや、身長はあるんだけど線は細い感じ。てゆうかイケメンだなおい。手を胸らへんで広げているのでこのままパスしてしまえばいいんだろう。学生の頃、突き指させられた記憶しかないバスケットボールを軽く放る。

「Thanks!」

お、おぉ…?

これで役目は果たした、というように私はこの場から立ち去ろうとした。

「こんな時間に女性1人は危ないと思いますよ」

彼がこんなことを言ってくれたので歩みを進めるわけにはいかなくなった。

「うーん、でもバイトの帰りなの。たまに遅くなっちゃうから仕方ないかな」

まだ0時だがシフトによっちや帰りが午前3時なんてことも稀にある。私が徒歩のときはバイト先の人に送ってもらうこともあるけど、自転車だとほとんど車の通らない道路を凄まじいスピードで走っていたりする。

「ここから近いんですか?」

「うん、10分かからないかな」

「俺で良かったら送りますよ」

「あ、いや」

きょとん、とこちらを見る彼に下心などないのだろう。とんだフェミニストだ。まだ高校生、かな?確かに身長もあるし正直イケメンだし色っぽいので実年齢より低く言われることはないだろうな、なんて思いながらもどことなくまだ幼さが残るような気がする。まぁ、そんなまじまじと観察ばかりしているわけにもいかないので。

「気持ちは嬉しいんだけど、あなたも一応知らない人だからね」

思わず苦笑。だっておかしいじゃないか。夜道のひとり歩き、それも女とあれば危ないことも多いって理解できるけどだからといって見ず知らずの人に送ってもらう、なんてわけが分からない。それに彼も気づいたようで、それもそうですね、と私につられたように苦笑を浮かべた。

「じゃあ、私は帰るけど君も早く帰りなよ。高校生でしょ?」

「はい、あと少ししたら」

「熱心なんだね」

「はい」

あ、今の笑顔はすごく素敵だ。元がいいだけに尚更。本当にバスケが好きなんだなぁ。青春だねぇ。彼はバスケットゴールへ、私はアパートへ、それぞれ歩を進めた。




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