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きっかけは私がトレーニング中に足を捻ってしまったことだった。自分で言うのもあれだけど、この方怪我は少なく生きてきている。いや、ヒビ入ったりとかそういう経験もあったりするけど、なんというか少女漫画とかである何もないところで転ぶのとかどうやってやるんですかって聞きたい程度には体のバランス感覚が強かったりする。でも、ランニング後でだいぶ体がふわふわしていたのと赤司くんに呼ばれたのとで急いでいたせいか足元を見ずに思いっきり置いてあったダンベル(私が使って放置してたやつ)に躓いた挙句、そのまま転ぶ前に手をつけば良かったのに、私の目の前にウエイト(私が使って以下略)があって手を付くわけにもいかずそれをよけようと変に体を捻ったせいで足首がおかしな方向に曲がりながら躓いていない方の足をついてしまったおけげでぐきっと音がしたのではないかと思うほど盛大に捻ってしまった。
「いっ……!」
「苗字さん!」
痛みで声にもならない声をあげ患部を抑えて呻いていると、赤司くんが慌てて来てくれる。少し待ってて冷やすものを持ってくるから。絶対に動くなよ、そう言い残してバタバタとジムを出て行った。
しばらくして赤司くんはお手伝いさん?かよくわからないけど女性を連れて戻ってきた。その頃にはとりあえず落ち着いてまだ足は痛いけどさっきみたいに唸り続けているわけでもなく、むしろ頭だけ変に冷静だったのだ。
「彼女足を思いっきり捻ったんだ。診てもらえるか」
「えぇ。少し、触りますね。動かしますから痛かったら言ってくださいね」
お医者さん?なのかな。わからない。
「赤司くんがするんじゃないんだ」
なんて、気づいたらぽつりと言ってしまっていて真っ直ぐに赤司くんを見ていたせいか私の言葉を聞いて一瞬だけ目を見開いたのを見逃さなかった。ただそれからすぐに表情は元通りで、赤司くんが喋る前に、
「征十郎様も捻挫くらいの手当てなら診れるんですどね。すぐに来てくれって仰るものだから」
と、その女医さんらしき人が苦笑交じりで話す。
「せっかくほどよく筋肉もついてきたっていうのに残念だな」
「すみません」
やっぱり捻挫で、今でこそ痛むかもしれないけど安静にしてればすぐに治ると言われた。ちなみに女医さんに診てもらって開口一番で赤司くんがこんなことを言ったわけじゃないってことを一応誰にでもなく弁解しておきます。
「まぁ、捻挫なら2週間程見れば普通に動けるようになるだろうし少し休憩ってところだね」
赤司くんはそう言ってくれるけどそもそも、躓きまくって足を捻る原因にあったのは出しっぱなしにしたダンベルとかウェイトとかが原因なわけで、どんなに赤司くんが私の脚に執着する変態であろうと申し訳なさがこみ上げてくる。
結局、赤司くんとはしばらくしたらまた診て貰ってよくなったらトレーニングを再開しようって話をして、とりあえず足の痛みが引いたと思ったら連絡することになった。そうか、しばらく赤司くんには会わないのか。ここのところ定期的に会っていたから会わないのが変な感じだし、あの少し厳しいトレーニングもその後一緒に適当な話をしながら食べる夕ご飯も味わえないのかと思うとちょっとだけ寂しい。
そこで改めて気づいた。「赤司くんがするんじゃないんだ」と自分が発した時の赤司くんの顔。私としても何を言ってるんだって思ったわけだけど、むしろ私の疑問は当然のものだったのかも。だって赤司くんなんでもできるし、実際あの女医さんっぽい人も捻挫なら診れるって言ってた。それなのになんでわざわざあの人を呼んで来たんだろうって。それからふと脳裏に過ったのは、
「#neme2#さんにはいっさい手を出さない」、といういつかの赤司くんの真剣な顔。もしかして、あれを律儀に守っていたっていうの?いや、でも分からない。そうとは決めつけられないっていうかもしそうなら赤司くん律儀すぎでしょ。いろいろ、あるでしょ。やむを得ない場合とか!いや今回の捻挫は自業自得だからもう文句も何もないんだけど!
うぅ…とにかくこんなに悶々と考えていても、しばらくは赤司くんと会わないのだからどうしようもない。てゆうか明日くらいバイトの日程替わってもらお。
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