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「いらっしゃいませ〜」
締りのない、かと言って失礼なほどではない挨拶の声。どこにでもいるコンビニ店員。それが今の私だ。今日はトレーニングじゃなくてバイトの日。週2回あるいは1回程度でゆるゆるやっている。希望収入を少なく設定したからか、人が足りない時間に繋ぎ程度にいれられることが多い。だからだいたい飲み会とかの多い金曜の夜と土日どちらかの日中のシフトばかり。私のアパートからはそう遠くもないけど、かと行って大学に近いとも言えないこの場所は何気に穴場なのだ、店員として。やっぱり駅近くとか大学の近くは忙しいみたい。今日もやっぱり金曜の夜なんだけど相変わらずだらだらとお客さんが出たり入ったりな感じ。
P.M22:23
あ、2222逃したなーなんて考えていたら入店音。
「いらっしゃいま………」
「……苗字さん」
見間違うわけのない赤色。そう、赤司くんだった。あれ、でも確か昨日赤司くんも飲み会に出なきゃいけないとか行ってなかったっけ?
「追加の買い出しなんだ」
「あー」
なるほど。私が考えていたのを察してくれたみたいだ。ところで、赤司くんの隣にいるあたりおつれさまのようだけど、となりの方の威圧感がやばい。怖い。目を合わせちゃいけないタイプの人だ。
「おい、赤司さっさと買って戻るぞ」
「友人と話してるのくらい待ってくださいよ。短気なんだから……」
「るせーな、轢くぞ」
「引くのはこっちですよ。ほら、彼女が怖がってるじゃないですか。今後このコンビニ使わないでくださいね」
はぁ!?とその人は口調を荒げる。黙っててもなんか怖かったし、轢くとか、もうなんか色々怖すぎる!身長が大きくてただださえ威圧感があるのに。そのままその人はアルコールのコーナーへと行ってしまった。
「バイト先ってここだったんだ」
「あ、うん」
「気のないいらっしゃいませだったね」
「え、あ、だって!」
あわあわする私をよそに赤司くんはクスクス笑ってから先輩?の後を追った。からかわれてる……。
それからそう時間もかからず、ドンと買い物かごがレジに出される。
「(うわぁ、こんなに飲むの…?追加なんだよね?)」
ちょっと顔が引き攣ったのは隠せなかったかもしれない。でも余計なことは言わず黙々とレジに通していく。と、お酒とおつまみに紛れてチョコレートが入っていた。間違い、じゃないよね?会計して返品不可ってなるとまた処理面倒だし。そう思って目の前の人と、赤司くんをこっそりチラ見しながらピッとバーコードを読み取るけどとくになんの反応もなし。まぁ、中には甘いもの欲しい人もいるもんね。
「お会計3872円です」
「はい」
「えー、5072……ん?赤司くん?」
「差し入れ、ってとこかな」
お金と一緒にカウンターに出されているのはさっき、お酒とともに袋につめたはずのチョコレート。断りを入れる前に「誰も食べないから」と言われてしまった。
「ありがとう」
「バイト、頑張ってね」
にこり、と笑って赤司くんは例の怖い先輩と共に出て行ってしまった。
あぁ、もう!ほんとに、こんなことってあるの!?少女漫画じゃあるまいし!でもやっぱときめくよ、赤司くんイケメンだもん!変態だけど。
上がる頃には空腹で、アパートまでの帰路に有り難くチョコレートを頂きました。
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