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なんてことだ。いつの間にか寝てしまうだなんて!久しぶりに運動したのにランナーズハイになって調子に乗ってランニングマシーンのペース上げたのが悪かったんだ!ハイになってるから疲労感はなかったものの、それでもやっぱり疲れは体に蓄積されていたんだなぁ。終わってから、ストレッチがてらマットに寝転んだつもりがそのまま寝てしまっていた。赤司くんは赤司くんでシャワーを浴びろって言って出て行っちゃうし。仕方がないのでジムに併設されてるシャワーを浴びて髪を乾かす。ドライヤーの熱が熱い。てゆうか赤司くん戻ってこないけど私どうすればいいのかな。普通に帰っちゃって大丈夫…?
「苗字さん?」
「っ、はい!」
「髪が乾いたらストレッチするんだよ。終わったら居間においで」
ドア越しに聞こえた声は言うことだけ伝えて、遠ざかる足音だけが聞こえた。あぁ、もう、それにしてもびっくりした。なんてタイミングだ。変な声出たじゃんか。で、ですね。帰ってはいけないんでしょうか?私が勝手に寝てたわけだし送って貰うのも悪いような気もするけど、赤司くんのことだから送るって言ってくれるんだろうなぁ。ドライバーさんにも悪いなぁ。もうほんと、調子乗ったのが悪かったんだね。自重ってこと覚えよう。
そんなことを考えながら髪を乾かし終えて、言われたとおり居間に向かう。いつも晩御飯を頂いてる隣の部屋だから居間には入ったことはなかったけれど場所は知っていたのです。
「し、失礼しまぁす」
「あ、苗字さん」
「あの、赤司くん、ごめんね。こんな遅くまで」
そろそろと襖を開ければ赤司くんが座っていて髪も濡れてるし着替えてるから、赤司くんもシャワーを浴びてきたんだなぁ、なんて考えながらもとりあえず謝る。いや、ほんと申し訳ないと思っています。
「さ、どうぞ」
「へ?」
いたたまれない気持ちだったところに上の台詞だ。耳を疑いましたとも。どうぞと示された先には軽食、と思われるものたちが。
「え、え?あの、これは」
「夕飯がまだだろう?僕もまだだから作って貰ったんだ」
「は、え、そんなこと…」
「食べるのもトレーニングだと思って。ただでさえ痩せてるんだから」
「いや、私、量食べても太らな…ってそうじゃなくて!」
「せっかく作って貰ったんだ。食べるよね?」
「いえっ、さぁ……」
赤司くんの笑顔怖い。
腰を下ろして箸に手を伸ばしつつチラリと赤司くんを見る。肩にタオルが掛けてあるけど髪から水が滴っていた。
「赤司くん、髪乾かさないの?」
「ん、あぁ、そのうち乾くよ」
案外杜撰なんだなぁ。私もこだわるほうじゃないけどさすがに滴ってるの気になる。そのまま黙ってみてたけどかなり滴ってる。でもきっとそれが普通なんだろうな。本人はまったく気にする様子もなく箸を進めている。
まだ一口も頂いてないけど私は箸を置いた。
「苗字さん?」
「ちょっと失礼しまーす」
「え?」
ふわ、とシャンプーのいい匂いがする。きっと高いシャンプーなんだろうな。気になりすぎて私が乾かすことにしました。わしゃわしゃとタオルを動かして水気を取っていく。ほら、これだけでだいぶ違う!
「あの、苗字、さん?」
「なんか気になっちゃって。嫌?」
「……いや、そんなとないよ」
え、なんだろう今の間。え、ちょ、私いけないことしてる?アウトだった?なんか冷や汗が流れてる気がしないでもないけどしてしまったことはしょうがない。黙って髪を乾かし続けましたとも。
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