それでも答えはイエスだろうね


レギュラスは人が良すぎると思う。態度こそ素っ気ないし淡々とした様子こそ見せるけれど。「ブラック」家の人間に持っていたイメージと少し違う。私の家は貴族でもなんでもないけれど親が仕事の都合上お貴族様たちと関わる機会が多いようで、多分普通の、私のような一般家庭で育っている子よりはそういった事情に詳しいとは自負している。そんな私が「ブラック」に抱いていたイメージというのは、まさにスリザリンって感じで狡猾さがまず第一。あとはやっぱり偉いからこう、いろいろ牛耳ってる感じで偉そうなイメージ。「ブラック」なんて言うから黒、というか暗いイメージもあるなぁ。あ、でもレギュラスの髪の色はただの黒のはずなのにとても綺麗だと思う。そんな「ブラック」家の彼、レギュラス・ブラックは優しい。

「レギュラス、図書館行くの?」

「そうですけど」

「この本もついでに返してきて」

「またですか」

はぁ、と辟易したように溜息をつく。つきながらも、こちらに向かってきて黙って本を受け取るんだけれど。完全に私が彼をパシリにしているようだ。ごめんね。

「名前さん、スラグホーン先生が貴女の進路のこと気にしてましたよ」

「なぜ、それを君が知っているのかね」

「なんですかその口調は。たまたま授業のあとで愚痴られただけです」

「しかも愚痴かよ、くそじじい」

「名前さん……」

名前を呼ばれただけだが、窘められた。暗に、言葉遣いが悪いですよ、と言っている。

「はー、進路ねー。あ、ブラック家のメイドとか募集してないの?レギュの部屋の掃除してエロ本見つけたいなー」

「してませんし、貴女のような人は間違っても雇いません。」

「そぉ?」

では僕は図書館に行くので。そう言って寮を出て行ってしまった。

わざと、家の話を引き合いに出してみた。

どうにもレギュラスは最近お家のことを快く思っていないようだ。でも兄貴が家出てからは多少日が経ってるし、むしろその頃より重たい感じだ。なんでだろうなぁ。もともとレギュラスはお家大好きだったじゃんねぇ。純血万歳だもんね。それがいったいどうしたことやた。遅い反抗期でも迎えてしまったのだろうか。

頼んでおいてあれだが、私は少し早めの歩調で図書館へ向かう。案外すぐにレギュラスの背中が見えた。

「”レギュラス・ブラック”」

「は?」

「貴方は”レギュラス・ブラック”ですか?」

「名前さん、何を言って、」

「答えてくれないかなぁ」

「そう、ですけど」

困惑している表情に満足して私はまた寮へと引き返した。なんなんですか、とちょっと語気を強めたレギュラスの声が私の背中に降りかかる。

そうだねぇ、君はどうしたってレギュラス・「ブラック」なんだねぇ。




(いつか、ただのレギュラスとして対峙することができたらなぁ、と思ってそれはきっと本当に“いつか”しか意味していないんだと自嘲する)