ほほえむ


もうじき、地球は滅亡する。たくさんの地球人はロケットに乗ってこの惑星を出て行ってしまった。火星に行くんだっけ?木星?どっちでもいいや。どうせ私は地球にいるのだから。大きな隕石が地球に突っ込んでくるそうだ。クレータでは済まなくて、おそらく地球は木端微塵になってしまうだろうってずっと前のニュースで行っていた。今はもう電気とかそういうものはとっくに止まってしまっていてニュースなんてはるか昔のもののように感じる。幸い、行きついたお店でガスコンロを使っていろいろ食べたりできるから、食べ物には苦労していない。季節もちょうど春。エアコンもいらないし、少し肌寒くなることはあるけどいっぱい着込めば平気。むしろ春のぽかぽか陽気の日に、物音1つないこの世界の穏やかな静寂に耳を傾けるのはすごく、気持ちがいい。

どうして私は地球に残ったのだろう。特に理由はない、と思う。死にたかったわけではない。大切な家族だってとっくにこの惑星を後にした。家族が悲しむことも重々承知だ。今思うと、すごく感情的に動いてしまったと思う。地球が、好きだったからかもしれない。自分の目でこの惑星を見たことがあるわけではない。でも人工衛星からの映像で見た地球はとてもとても美しくて、テレビから流されるこの地球上のさまざまな自然がとても愛しくて、それを一瞬考えてしまった。気付いたら、私はロケットから降りていた。一歩一歩、大地を踏みしめる。ちっぽけな地球かもしれない。とくに日本なんか建物でひしめいていて、至るところに人間がいて…。でも今、この惑星に私1人しかいない、と考えるとなんて大きな惑星なんだろう。だって私1人の力でブラジルまで行くことは不可能だし、ブラジルどころか韓国にだって辿りつけない。いやむしろ北海道から沖縄にだって…あはは、なんだか楽しくなってきた。隕石がぶつかるその日までいろいろ歩いて回ろうかな。

独り言もたくさん言って、好きな歌もたくさん歌う。どうせ1人だもの。楽しんでしまえ。ふと歌っていたのは有名な「カントリーロード」翼があったら韓国くらいは行けたかな、なんて思いながら。私の歌と足音だけ。そんな中で声がした。同じ「カントリーロード」でも歌詞が違う。英語だ。そしてそれは、私の大好きな大好きな人の声だったのだ。

「Country roads, take me home To the place I belong…」

「マー…ク…?」

私は、幻覚でも見ているのだろうか…。そしたら幻聴も聞いてることになる。だってそんなはずない。そんな、まさか。

「名前」

あぁ、私の愛しい声だ。地球に降りたって我に返ったとき、思わず貴方を思って泣いてしまった自分をさらに自嘲したのはついさっきだ。

「なん、で…?」

「名前のいる世界が、俺の世界だ」

馬鹿じゃないの馬鹿じゃないの。どこのB級映画の台詞よ。

それでも貴女の微笑む姿を見て、もういつ隕石がぶつかってきても構わない、そう思ってしまう私は現金なやつなのかもしれない。