世界は嘲笑う
「君は短い髪が似合うね」
確かにそう言った。別に、愛しさがこもっているわけでも彼女に特別な感情を抱いていたわけでもなかった。ただ本当に短い髪型が似合うと思ったのだ。どうしてだか女子生徒は異様に髪を伸ばして、必死に櫛で梳いてみたり手で撫でつけたりと忙しないが彼女はそんなことはない。少し癖のある髪の毛が自由にふわりふわり流れている。
「リドルがそう言ってくれるってことは本当なんだろうなぁ。嬉しい」
そう言って笑った。
卒業してからのことはお互い知らなかった。彼女は平凡な生徒であったし、死喰い人に誘いこむような魅力もなかった。彼女の魅力と言えばその素朴さだろうか。スリザリンに似つかわしくない穏やかな雰囲気を持っていた気がする。もしかしたらわずかに残る記憶を勝手に美化させているだけかもしれない。だから今、目の前にいる彼女がこんなにも滑稽に見えるのかもしれない。
何の気もなしに、街に出ていた。さすがに本を読み耽って闇の魔術を研究するのに疲れていたのかもしれない。僕としては珍しく気持ちよく晴れた昼下がり、なんて時間に外に出ていた。そこでたまたま彼女を見た。最初は気がつかなかった。ただやけに耳に付く笑い声がしたのだ。視線を向けた先には、あの癖のある髪の毛を肩まで伸ばして、少し大人びたようにも見える彼女がいた。
僕が彼女に冒頭の言葉をかけたのは確か入学してから早い方だった気がする。1年か2年か忘れたが。彼女はそれから髪を伸ばすことはなかった。時に長さは違えど、彼女の髪は短く風に揺れていたのだ。
あぁ…、似合わないな…
僕はその夜、彼女の髪を切った。首ごと。