全ては蚊帳の外



「あの、リッパー?」
「なんです?」
「いや、なんです?じゃなくて。いいの?試合ちゃんとやらなくて。ペアの人ちゃんとやってるみたいだよ」
「いいんです。試合前失礼な発言をしていたので。萎えました」

そう言われると何も言えなくなってしまう。サバイバーとしても、相手を貶すような発言をしたり気分のよくないまま試合が始まることも少なくない。ましてや今はダブハン中で、ペアのハンターは一人で7人の相手をしている。かわいそうと思わなくもないが、リッパーがここまで機嫌を損ねているのも珍しいし、私がとやかく言ったところで暗号機は残り2台。恐らく誰一人として椅子に座らせていないこの状況では、今さらリッパーが出ていったところで戦況は変わらないだろう。そう思って私は大人しくリッパーの腕の中にいる。

「せっかくの遊園地だし、ジェットコースターでも乗る?」
「いいですね、と言いたいところですが、怒り狂ったペアがあなたを吊りにくるかもしれませんから、ここでいいです」

ここ、というのはいわゆる地下である。まぁ、サバイバーはそれぞれ解読と粘着で忙しそうだし、ペアのハンターはだいぶ遠くにいるようだからこの地下に用はないはず。
リッパーはよっぽど萎えたのか、先程から何をするでもなく私を抱えている。

なにか、元気付けることでも言った方がいいのかな、そう思って
「私、リッパーにこうして後ろからぎゅってされてるの好きだな」
と、何気なくいったつもりだった。
「は?誘ってるんですか?」
「いやいやいや、ついさっきまでしょぼしょぼしてたのに切り替え早すぎでしょ。腕締めすぎ苦しい!」
「好きなんでしょう?」
「言葉のあや!」
なんて、またリッパーにからかわれてしまっている。

そんなことをしているうちに通電の音がする。

「そろそろ私も出ようか?」
「寂しいことを言うんですね」
「いつまでもこうしているわけにもいかないし」
「ゲートまでエスコートしますよ」
「え、いいよ。ゲート近づいたら信号銃で撃たれちゃうよ」

それは嫌なのか、ふむと少し考えてから私を抱えたままリッパーが立ち上がる。

「では、こちらへ」

サバイバーのほとんどが脱出して勝利は確実。だから私一人椅子で飛んだとしてもなんの問題はなさそう。リッパーもそう思ってか、地下に必ず設置されているロッカーの前に恭しい動作で降ろされる。

「まぁ、これなら痛くなしいいかなぁ」

でも私が飛ぶまでの間にペアのハンターがこちらに来てリッパーが怒られたりしないかなぁなんて心配してたら、もしかしたらとっくの昔に投降の指示が来ていたのかもしれない。私が椅子に座った瞬間、ハンターの投降が告げられた。

どうやっても私を飛ばしたくなかったらしいリッパーは、試合後にはあのしょぼくれた雰囲気は全くなくて、いつものご機嫌な鼻唄を歌っていた。