はろー、はろー、未来のぼくへ
部活の買い出しに来ている。テーピングだとか、足りないドリンクの粉とかちょっとしたもの。大会が近いから、取り急ぎ揃えないといけないものだけを買いに出てるのでそこまで大変ってことでもないんだけど、「入ったばかりの下っ端」だから、という青峰くんのよくわかんない理論であの黄瀬くんとお買い物に来ているのだ。赤司くんがいないことをいいことに青峰くんがやりたい放題だ。(赤司くんはたしかなにかの会議だとかなんとか)黄瀬くんも嫌だ嫌だバスケがしたいとぎゃーぎゃー騒いでたのに、そう拒否されると青峰くんも意地になって買い物に行けと騒ぎ出したものだから、緑間くんがキレて追い出されてしまったのだ。さつきちゃんはいつも通りスコアつけたりとかマネージャー業に勤しむので私が駆り出されたというわけ。
「あの、黄瀬くん、ほんとに私1人で大丈夫だから練習戻っていいよ?」
「もう戻れねっスよ〜。青峰っち、ぜってー相手してくんねーもん」
「……そっか」
完全に拗ねてる。
「そういえばさ、」
「なに?」
手元のメモを再度見ながらどこの店から回るか考えていたところだった。私の半歩後ろをゆったりついてくる声音はどこか冷たい。
「あんた、バスケはそんな好きじゃないよね」
「え」
思わず足を止めてしまう。
どっち行くの?と先を促されてまた歩みを進めつつ、この人は意外と人を見ているのだなと感心した。
「私、マネージャーになるの、別にバスケ部じゃなくてもよかったんだよね」
「ふーん」
自分から話題をふったきたくせに返ってきた相槌は実に興味がなさそう。拗ねているからこんななのか、素なのかいまいちはかりかねる。
「ただ、一生懸命なにかに打ち込む人を見るのが好きで、そのサポートがしたいなって思ったの。だから最初はルールも知らなかった」
ハハっと笑ってきたけど返事がなかったのでちょっと気まずい。お目当ての薬局に入ると、店内放送の明るい空気が実におかしな空気を醸し出している。
ぽいぽいっと慣れた手つきでお目当てのテーピングを籠に放り込んでいく。そのあとは怪我用のスプレー、ドリンク、エトセトラ。なんのために俺が来たのかわからないくらい籠に物を詰め込んで、さすがに見かねて籠を取り上げた。苗字さんはキョトンとしてからありがとうと言って、次の籠を持ってくる。うーん、なんか違うんだよなぁ。いや、確かに籠はいっぱいだけど、苗字さんの負担が全然減ってないというか。俺は楽でいいんだけど。黒子っちがいたら白い目で見られそうだ。
彼女の後ろをついて行きながらさっきの会話を思い出す。今も、こうして媚びてくる様子なんて一切ない彼女は、特別バスケが好きだと感じることはなかった。それでも一生懸命マネージャーを務めていて、なんというか、すごく熱意があったから、なんかよくわからない人だって思ってた。わからないことは聞いてみるしかない。そう思って聞いてはみたけど、答えは意外とシンプルで、そんなもんかって印象。黙々と買い物を済ませて、また1人で運ぼうとするビニール袋を取り上げる。
「ありがとう。ごめんね、荷物持ちさせちゃって」
「そのために来たんスから」
「そうだったね」
あとはスポーツショップに寄るそうだ。結構な量じゃないか?俺がいるからなのかはわからないけど。
同じように苗字さんに着いていきながら、ふとまた思ったことを口に出した。
「ねぇ」
「んー?」
「俺も入ってんの?」
「なにが?」
「さっきの。一生懸命なにかに打ち込む人に」
「あぁ」
後ろ姿しか見えなかったのに、にやりと意地悪げな顔をした苗字さんが振り返ってちゃんと視線を合わせてくる。
「まだ△ってとこかな」
「なにそれ」
「努力しましょうってこと」
「あっそ」
ふふ、とまた笑う苗字さんの思惑通りみたいで無性にイラついて彼女が持ってる分の袋も取り上げた。
「あっ、なに?なんで?」
「知らねーっス」
あからさまに不機嫌そうな声にまた苗字さんは、楽しそうに笑う。なんつーか、よくわかんねぇけど悔しいんだよな。戻ったらぜってー青峰っちと1on1してもらお。