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これは両親には内緒だ。

僕はマグルの絵が好きだ。こっちの絵のように動くことはないし人物画が話をすることもない。まるでその一時だけをくり抜いたような様が、むしろ美しいと思ったのだ。それを見たのはどこでだったか。もちろん実家の蔵書ではない。きっとホグワーツのどこかで見たのだろう。けれどマグル学をとっているわけでもないのに一体どこで見たのか。それさえも思い出せないというのに一度見たその絵を忘れることができずにいたのだ。










パサ、と前を行く女子生徒の本から何かが落ちる。彼女は気づいていないようだ。

「すみません、落とし…」

「え、あ、ありがとうございます!」

声をかければすぐに振り向いて律儀にもぺこぺこと頭を下げた。しかし僕は手にした1枚の紙から目を逸らせずにいた。それは荒れ狂う波と、それに挑むようにして描かれる船の様。水しぶきがこちらにはねることも、荒波の轟音がすることもない。それでもその激しさが伝わってくる。

「あの、」

「…すみません」

その絵に魅入ってしまい、彼女がその絵というかポストカードを手にとっても離せずにいた。彼女の声で我に返り慌てて手を離す。それでも、どうしても気になってしまったのだ。本で調べることだってできる。だけど、マグルに関するものに携わっていることが知られるのが嫌で行動に移せずにいた。本を読む程度ならそこまで諌められることもないとは分かっているのに。

「あの、それはマグルの絵でしょうか?」

「え、あ、はい!こっちでは珍しい、ですか?どの絵も動いていますもんね」

「えぇ。とても、いい絵だと思ったので」

「本当?あなたは純血の方?」

「はい」

「そうですか。ロンドンのナショナルギャラリーならこういう絵がたくさん見れるんですよ。無料で!募金を受け付けているんですけどね」

だから私、実家にいる時はよく行くんです、と嬉しそうに語る彼女。そうか、そんなものがあるのか。マグルの世界には、行ったことがない。行く必要もないと思っていた。しかしこうして楽しそうに語る彼女を見ていると、その手の絵を見ると、興味深いと思ってしまい、また脳裏に両親の顔が過る。

「機会があったらぜひ行ってみてくださいね」

拾ってくれてありがとう、と告げて彼女は去っていった。ネクタイの色さえ見ることがなかった。そのため、彼女が教えてくれたナショナルギャラリーを忘れることがないよう呟き、その絵と、声を頭の中で忘れないように何度も繰り返しうつすのだった。



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純血の家系ってマグルの世界のことはノータッチなのでしょうか。でもミレミアムブリッジとかぶっ壊しにいってるし有名な建築物とか観光地くらいなら知ってるものなのでしょうか。わからぬ。