落ち度はない
「うわっ」
一般生徒ならば家でまだ寝ているであろう土曜日。私は部活へと向かっている。東京も珍しく雪が積もったはいいが道が凍ってしまっていかんせん危ない。ローファーが滑るのなんの。今もこうして少しばかり滑ってしまったわけで、でもまぁ転ぶでもなく事無きを得たわけですが。
「気をつけてくださいね」
「うわああああっ……って黒子か。びっくりした」
いつからいたのか、黒子が横からひょこっと現れた。てゆうか見られてたのか恥ずかしいな。
「その靴じゃ滑るんじゃないですか?」
「うん。すごく」
気をつけてくださいね、とまた同じ台詞を言われてしまった。確かに滑って尻もちをついたりするのは嫌だ。めっちゃ痛そう。恥骨とか痛めたくない。どうせ向かう先は一緒なので黒子と共に体育館へ向かう。一応マネージャーである私は準備とかしなければならないので早めに来ているわけだけど、鍵を持っていて1番早くくるのは赤司だ。そういうわけで部室に到着したら物珍しげに眺められた。
「珍しい組み合わせだね」
「たまたま会ったんだよ」
「苗字さんが道で滑っていたので思わず声をかけました」
「誤解を招く言い方しないでよ!転んでないからね、赤司!」
「わかってるよ。苗字は転ばないもんな」
ん、なんだろう。この物言いは。これは別に赤司が私が転ばないと確信しているわけじゃない。だって絶対に転ばない人間なんていないわけで。となるとこれはどうやら皮肉を言っているように思えるのだがでも何を言っているのかよく分からない。それが顔に出ていたのかもしれない。赤司が口を開いた。
「黒子、苗字はなかなか運動神経がいいんだ」
「はぁ…」
「何言ってるの赤司」
黒子も反応に困ってるようだが私が口を挟んだらあの威圧感たっぷりの目で睨まれた。怖い。
「例えば、だ。階段で1段踏み外してしまったとする。転びそうになったところを支えてもらうってのがまぁよくあるパターンだろう。だが、こいつは絶対そんなことしない。絶対転びかけたところで隣の手すりをがっちり掴んでるんだ」
「良いことでしょ」
「苗字は黙ってろ」
なんだというんだ赤司のことテンションは。
「普段も段差という段差に万が一躓いたとしても、うわ、とか言ってよろけただけでバランス保ってるし。大丈夫か、って言って支える隙もないんだ。図太いだろ」
「赤司、それが言いたかっただけでしょ」
またもや睨まれた。黒子はまた、はぁ、と生返事をしていて赤司の目さえなければ早々にミスディレしていたことだろう。挙句の果てに赤司は人のことを図太いだのなんだの言ってくるので埒があかない。私にどうしろと。
「あの、痴話喧嘩なら僕練習してくるので、お二人で続けてください」
失礼します、といつの間にか着替えを済ませていた黒子はぱたん、と扉を閉めて体育館へ出て行った。え、私もここにいたのに着替えとかしたの。ミスディレあるし関係ないか。ってそういう問題なの。
「黒子、怒ってたな」
「あれ怒ってたの?」
「気付かないのか…?だからお前は図太いんだ」
「うるさいなぁ。私が『きゃぁ、転んじゃったぁ〜いった〜い(裏声)』とか言ってたらドン引きするでしょ」
「どちら様ですか」
「もうほんとめんどくさい赤司」
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私の中でこの2人は実は付き合ってる。
少女漫画思考な赤司くんとかかわいいじゃないですか。