君の隣だから息ができる


めっちゃ雪が降った。なんか10年に1度の大雪らしく、まだ20年も生きてない私としては人生初めてこんなに雪が積もっているのを見た。朝家を出る時に母さんに無理矢理長靴を履かされて文句を言ってたけどこれはもう今朝のことを謝るしかない。さすがに私もローファはやめてブーツで行こう、くらいは考えたのに果敢にも(?)ローファで来た子もいるようでもはや靴の意味を成してないほどに足元ぐっちゃぐちゃで登校していた。そして授業中もしんしんと降り続けたおかげで朝よりもさらに積っているこの状況の中、彼女はいったいどうやって帰るのだろうかとくだらない心配をしていたり。

「あっぶね、ここなんかすげー深いわ!」

隣で1人楽しそうに雪道を進んでいくのはハイスペック彼氏と名高い高尾和成である。ちなみに私の。間違っても例の緑色の奴のことではない。そう、この大雪のせいで午後の授業も早々に帰宅命令が下されたのだ。もちろん部活もお休み。いつもいつも部活に明け暮れている彼氏様と久しぶりに一緒に下校。だけど私の気持ちはなんとなくささくれ立っている。高校2年の冬、なかなかの進学校である秀徳ではすでに進路の話が始まっていて先日もよくわからないセミナーが開催された。自分のまだ全然よく分からない進路を目の前に突き付けられたようで勝手に沈んでいるだけなのに。とりあえず大学進学。でもどこに?何がしたいの?全然分からない。自分が社会人として働いている姿も。誰かの隣にいることも。将来のことを考えると分からな過ぎて真っ暗になる。そしたら、こうして一緒にいてくれる高尾もいつしかいなくなってしまうものなんじゃないか、とか考えてこうして明るい高尾の言葉に気の抜けた返事をしながらしか、隣を歩くことができない。やだなぁ、こんなかわいくないやつ。

「ね、ね、名前ちゃん!」

「んー?」

積った雪が邪魔をするからか高尾はひょこひょこ体を揺らしてわざわざ私の目の前を陣取るから、自然と足をとめた。何?と尋ねる前に高尾に腕を掴まれて、そのままグイと強く引かれる。急なことで制することもできずに私は引かれるがままに前につんのめった。

「えーい!」

「うわっ」

ボフッ

「つ、めたい…!」

「あははっ名前ちゃん顔面まで雪に突っ込んでる…!」

「ちょ、何すんの!」

バランスを崩した私はそのまま高尾の胸にダイブ、なんてことはなく、高尾もともに倒れていった。おかげで私も高尾も雪の中にダイブだ!本当に大雪、って言葉がふさわしいほど積もっていて倒れても全然痛くもない。私が倒れたところ綺麗に跡が残っていた。それでも冷たいものは冷たい。体を起こそうとしたらクイッとまた高尾に腕を引かれる。

「疲れてたみたいだからさ」

「………」

「こん中にダイブしたら楽しいかなーって勝手に思ったんだけど。ど?」

さすがハイスペック彼氏。彼女の些細な変化も見逃さないってか。別に、皮肉じゃない。高尾は本当に私をよく見ていてくれてる。私の欲しい言葉をくれる。だからこそ、私みたいなのでいいのかと、不安になってしまうのだ。

「あれ!?楽しくなかった?そんなに嫌だった!?ごめん!」

「え、いや、楽しかったよ」

「じゃあなんでそんな泣きそうな顔してんだよ」

ハイスペック彼氏、というよりはむしろ私は表情に出すぎなのだろうか、って心配になる。そんな顔、してたのかな…。

「名前ちゃんが元気ないと高尾ちゃんも寂しいぞー」

「わっ」

掴まれていた腕がまた強く引かれてまた雪の中に突っ込む。ボフッてするのは、高尾の言う通りなんか楽しい。馬鹿みたい。高校生にもなって。でも、

「あははっ、高尾!馬鹿…冷たいって!」

「もっかいやる?あ、俺前中の練習しよ!」

「なにすんの?」

「ほら、あれ、バク中の前バージョン」

「は!?危ないよ!」

「だいじょーっぶ、」

跳んで勢いをつけた高尾が今までとは比べ物にならない勢いで雪に突っ込む。そもそも足元も悪いしコートも着てて重たいのに練習も何もないでしょうが。

「うぇ、もうコートが濡れてきちゃったよ高尾、帰ろう」

「あぁ、そうだな」

相変わらず身軽そうにひょい、と私の元に戻ってくると私の表情を窺うようにかがんで、

「元気出た?」

と聞く高尾はなんていうか健気で。しかもこうなんていうか微妙だった。雪の中で遊びたかったのは高尾でしょ、って思ったし。でも、楽しかった。私1人じゃ絶対にしなかったこと。高尾と一緒だからできたこと。

「うん」

思わず笑ってしまって、それを見た高尾も笑ってくれて、あぁ、これでいいんだなぁって。