君が教えてくれたこと


※現パロ

ジリジリ、ジリジリ

ただでさえ暑い日差しが、コンクリートに反射してさらにその熱を高めている。夏。夏真っ盛りだ。真っ青な空に白くて大きな入道雲が映えて、これがクーラーの効いた室内から眺められたのならなんて爽やかな景色だろう、と思った。残念なことに私は今愛しの彼氏様に連れ出されこの暑いなか外を出歩いている。外といっても店内に出たり入ったりというだけで、アウトドアを楽しんでいるわけでもないんだけど。ただ夏が苦手………というか嫌いな私にとってはそれさえも苦痛。特別な用事があるわけでもないのにこの暑い日中に外に出るなんて正気の沙汰ではない。

もちろんそんなことはエースも知ってる。だからこそ、少し遠慮がちに言われてしまうと私は折れずにいられないのだ。

暑い暑い。少し外に出ただけでじんわりと汗が滲む。早く店内に入ろうと思うんだけど足取りはとろい。暑くて動けない。エースは人より体温が高いから夏なんて本当に暑苦しい。今日はさすがに街中なのでちゃんと服を着ているけど家じゃ、夏に上なんて着てる方が少ない。だけど手を差し伸べられれば握らずにいられない。やっぱりひどく暑い。だけどこれからアイスを食べに行くのだ。我慢我慢。




エースの提案による真夏の街中ぶらりデートは夕方に切り上げて、連れられるままに私たちは海に来ていた。本当はエースも海で泳いだりしたいんだろうなぁ。私が夏嫌いのせいでなかなかそれを言うことはないけど。ごめんね。

海なんて、結局昼間の熱が残っているし、砂浜は足に砂がまとわりつくし、とかそんなことを思っていた。けれど、海風のせいか、意外と風は涼しい。それにしても風が強い。髪がぼさぼさになるけどおかげで本当に涼しい。ちょっとびっくり。

「意外と涼しいんだね」

「そうだな。今日はついてるな」

なんとか、嫌じゃないよってことを伝えたいんだけど当たり障りのないことしか言えない。だってやっぱり夏って嫌だから。だけどエースが連れてきてくれた今日の海は割と好きかもしれない。まだ検証中。

「喉渇いたなァ。そこの自販でなんか買ってくるわ」

待ってろ、とさっさと行ってしまった。まだ私が木陰から出たくないのを察してくれたんだろう。日は沈みかけていて、それでも夏の強い夕日。当たりは明るいオレンジに染められていてとても綺麗だ。昼間、外に出ていなかったら今でも暑い暑いと騒いでいたかもしれない。あの暑さに比べたら今なんてとても涼しい。綺麗な景色も手伝って私の気分はだいぶよかった。

「ひゃっ」

「気持ちいいだろ!」

「びっくりした!」

ケラケラ笑うエースの片手には買ってきたであろうペットボトル。首筋に当てられたもんだから素っ頓狂な声をあげてしまった。子どもか。

「海、近くまでいく?」

「いや、また今度でいい」

「そっか」

このまた今度がいつか実現すればいいとエースは思ってる。それくらい望み薄で言ってることを私も知ってる。

風が気持ちいいおかげで私も帰りたいと駄々をこねることなくぼんやりと海を眺めていた。だけど今日は暑かったけど楽しかった。どんどん日は沈んでいって水平線沿いだけがまだオレンジに輝いている。当たりはだいぶ暗いのにそこだけが強く光っていてまた綺麗だと思った。

「すごく綺麗」

「たまにはいいだろ?」

「うん」

またありきたりなことしか言えないけど本当にそう思ってるよ。

「たまにはこういうのもいいかな」

満更でもなさそうに私がそういえばエースは海を見たまま嬉しそうに笑った。

「夕方こんなふうに気持ちよく感じるのも昼間外に出てたからだろうし、夕日が綺麗なことも知ってるけど、こうして見るとやっぱりたまにはちゃんと見るのもいいなって思った」

「だろ!」

「エースにはこういうロマンチックな雰囲気ちょっと似合ってないけどね」

「はァ!?」

お前が喜ぶようにって連れてきてやったのに、とぶつぶつ言ってる。知ってるよ、そんなこと。

「ありがとう」

それからちょっと小さい声で、大好きって言ったら抱きしめられた。暑いよ、エース。