光の色



今朝しとしと降っていた雨も止み、今ではすっかり快晴だ。草花には雨の雫が残り、それが太陽の光を吸い込んでとても綺麗。まだ雨の匂いが残ってる、すごく気持ちのいい午後。今日は珍しく皆お仕事だったり私用があるみたいで、お屋敷には人気がない。あ、神宮寺くんはもしかしたら部屋でごろごろしてるかもしれない。顔を1度も見てないから。まぁ、彼は意外とオフの日には自堕落に過ごしてるみたいだし、それがストレス解消?っていうのかな、気持ちを切り替えるために必要ならオフの過ごし方なんて人それぞれだ。とにかく、人気もない。たまっているお仕事もない。ということで私は無駄に広い庭に出ている。この庭を管理している庭師さんに私専用のスペースをいただいたのにろくにお世話もできていなかった。庭師さんが見兼ねてお世話してくれてるみたいで植えた野菜の苗たちはすくすくと育っていた。雑草でもむしろうかな……


「名前?」


「わっ!………びっ、くりした……愛島くん、出掛けてたんじゃなかったのね」


しゃがみこんだ途端頭上から掛けられた声は愛島くんのもの。今まで全然気配がなかったのに一体どこから……!


「朝早いお仕事だったのデス。さっき戻りました!」


「そっか。お疲れ様。でも、こんなところでなにしてるの?」


こんなところ、というのもこの庭は皆が通る表とは真逆の位置にあるのだ。庭師さんが私にスペースをくれたのも人目につかない場所だからっていうのもある。表は庭師さんが腕によりをかけた素晴らしい庭園となっている。


「上にいたのです」


「上?」


愛島くんが指を差す方向を目で追っても立派な木の枝が広がるばかり。青々とした葉が、水滴をつけてきらきらと光っていて眩しい。


「え、木の上ってこと?」


「ハイ」


いやいやいや仮にもアイドルの君がそんな、怪我でもしたらどうするのと突っ込みたいところだったが私が二の句を挙げる前に愛島くんが、あそこに、と一点を差した。


「鳥の巣があるのです。まだ赤ちゃんが生まれたばかりだったので心配で……」


確かに、木の枝が密集しているところに巣が見える。鳴き声がしないから雛がいるのかまではわからないけれど愛島くんがいうからいるんだろう。それにしても高い。


「あんな高いところに……愛島くん、怪我しないようにね」


「名前はやさしいのですね。でもワタシなら大丈夫デス!」


その根拠のない自信はいったいどこからくるのか……と思いつつも屈託のない笑顔が眩しくて黙っておくことにした。


「名前こそ、ここでなにをしているのですか?」


「えっとね、これなんだけど…」


愛島くんに庭師さんの話をすると、急に瞳を輝かせていつものファンタスティック!をいただいた。


「素敵です!ぜひできたら見せて下さいね!写真を撮ります!」


「私も楽しみなの!収穫できたら一緒に食べようね。」


実はお喋りしながらも少しだけ生えていた雑草をむしっていたのだけれどそれもだいたいなくなった。そもそも庭師さんがやってくれてたんだろう、ごめんなさい。そろそろ中に戻ろうかと思ったら、サックスの音が聞こえてきた。やっぱり神宮寺くんいたんだ。


「あ」


「どうかしましたか?」


「これ、みんなには内緒ね」


「どうしてですか?」


こてん、と首を傾げる姿がとてもかわいい。じゃなくて。


「見ての通り、苗はそんなにたくさんないからみんなにあげることができないでしょ?」


愛島くんもはっとした表情をして小さな私の庭を見つめる。ちょっと残念そうにしたかと思えばまた急に瞳を輝かせる。ころころと表情がかわってこちらまで楽しくなってくるんだよね、愛島くんといると。


「名前とワタシだけの秘密デスね!すごい!なんだかワクワクします!」


「ふふ、なんだか秘密基地みたいだね」


「秘密基地!なんですか、それは!」


知らない?小さい頃に作ったりしなかった?とお喋りを続けていたら、愛島くんが空にかかる虹に気づいてまたは楽しそうにはしゃいでいた。愛島くんすごい。癒し効果ある。