これだから恋というヤツは


クリスマスはウィンターカップが重なっているので会わない約束をした。だから、ウィンターカップ前にクリスマスデートをすること、そして年末年始は一緒に過ごそうって決めて。若松と付き合って1年満たないからこのクリスマスも初めてだし、それを気遣ってかあの若松が、いいのか?って眉間に皺を寄せて難しい顔をするもんだからあ、愛されてるなぁって柄にもなく思って嬉しくなったりしたんだけど、試合に集中した方がいいと思うし、むしろ私がしっかり集中してほしいし、思いあがりかもしれないけど私のことを気にして集中できなかったと心のどこかで言い訳にされてはたまらないから。どうしても会いたいって言うなら電話一本で駆けつけてあげるよ、当日はこっそり見に行ってあげるからって冗談交じりに言ったというのに、会場来たら連絡しろとか言うもんだからこっちまで恥ずかしくなってしまった。なに、その、彼女の応援ってやつ、やる気でるの?って照れ隠しにまた軽口を叩けけば、うるせーよ!ってそっぽ向いてしまった。私の彼氏なんてかわいいの!

と、まぁそんな感じでクリスマス、というか大会目前に会うわけにもいかないので本日クリスマスより一週間強も前ですが若松とデートです。もしかしてこれ大会前最後の休みなんじゃないかな。それを私のために使ってくれてるのって嬉しいなぁ。

「あ!若松!」

「おう」

駅前で待ち合わせをしていたけど、連絡を取ることなく落ち会えて良かった。とくに何をするかも決めてなかったら少し前に発売した雑誌を買いに本屋に行って、適当にカフェ入ってご飯何食べたいかとかもうめっちゃどうでもいいことを話し合っていた。

「何か食べたいものある?」

「に…じゃなくて、お前はなんかないのか?」

「うーん、焼き肉行きたいと思ったけどさすがに一応クリスマスデートなのに焼き肉はねぇ…」

他に何食べたいかなぁと考えていると急に若松がこらえきれなかったように吹きだした。え、何私変なこと言ったっけ?

「俺も、ちょうど焼き肉食いてぇなって思ってたからさ。で、さすがにクリスマスにそれはねぇなと思って言うのやめたんだけど」

「あぁ、それで『に』だったので、肉って言いたかったんでしょ!」

「まあな」

ちょっとおしゃれな雰囲気のカフェだったから二人で声を殺して爆笑した。あーこれだから若松と一緒にいるのは好きなんだよなぁ。で、結局二人とも焼き肉に行きたいというのに雰囲気重視で、携帯で検索したちょっとおしゃれっぽいパスタの店にいこうと決めて、それまではぶらぶらとうろついていた。いっつもこんな感じで喋りながら適当にお店を回って終わってしまうから最初はどっちかの家でもいいと思ってたんだけど一応クリスマスということで外に出てみただけだったりする。私もだけど、若松も案外そういうこと気にかけてくれてて意外。そんなとこがかわいい。って友人に言ったら惚気乙とだけ返されてしまった。辛辣。

お目当てにしていたパスタの店にも迷うことなくつき、ちょっとお高めのパスタを頂いた。若松は足りなかったんじゃないのかな。帰りにすき家とか寄るかな。デザートまで食べ終えてから私は用意しておいたプレゼントを取りだした。

「めっちゃ、早いけどメリークリスマス!」

「嫌味か」

「そんなわけないでしょ!言いだしっぺ私なんだから、はいこれ」

「サンキュ。で、これ俺から」

ことん、と置かれたのは予想に反する小さな箱。え、ちょっと待ってこれはもしかして。

「開けて、いい?」

「おう」

うわ、なんか恥ずかしい。いつもなら盛大に包装紙破るんだけどこれはそんなことをするわけにもいかない、というかできないない。少しずつ開けるのにも、柄にもなくドキドキしてしまって、くっそぉリア充め!って心の中で自分に自分で言ってみたり。

開けてみると、繊細な作りのネックレスが出てきた。小さな花があしらわれていて角度によってピンク色が光に反射して映えて見える。

「お前、あんまりこういうのつけねぇし柄じゃねぇんだろうけど…俺がやったんだからつけろよな」

ネックレスから視線を外して目の前の若松を見ると、少し顔が赤くて照れてるんだなってわかる。それよりも、どんな顔してこれを買いにいったのか、とかこんな繊細でかわいらしいものを私をイメージして買ってくれたのかと思うと恥じかしいやら照れくさいやら嬉しいやらでとにかく大混乱だった。

「うぅ…若松、ありがとう、好き」

「っば!……俺もだ」

「あ、てゆうか私のプレゼント全然こんなロマンチックなものじゃなかったんだけど!普通にスポーツタオルにしちゃった!」

「あ?いいよ、ウィンターカップで使うし。」

「えー、もっとこう、特別な感じのプレゼントにすればよかった。若松がこんな素敵なものくれると思わなくて」

「そりゃ良かった」

「あ、ちょっと待って!」

手帳の白紙の部分をビリビリと破ってそこに同じ言葉を書き込んでいく。小学生並みの発想だけど、これで私の誠意を汲んで欲しいというか、誕生日にはもっとまともなことするから…!ごめんね若松!

「はいこれ!あげる!」

「なんだこれ。『なんでも言うこと聞きます券』…?お前…肩たたき券じゃあるまいし」

「う、それは自分でも思ったけど…!」

「じゃ、これ1枚」

「え?」

「使っていいんだろ」


「え、うん」

あげた紙から1枚私の手元に戻ってきた。まさか今使うとは思っていなかったので少し面喰ってしまう。そもそも何を言われるんだろう。安易にあげたけどどんなこと言われるかとかは全く考えてなかった。普段だったらジュース奢れとかありそうだけど。

「名前、呼べ」

「え」

「いつまでも苗字とか、あれだろ。名前」

「あ、うん、そう、だね…孝輔」


なんかもうその後は付き合いたての中学生かよってくらいギクシャクしちゃって、ようやくお店を出てからすき家に入るまで繋いでくれた手もどことなく汗ばんでしまって落ちつかなかった。