愛しい君はヘムロック
赤司が独占欲が強いことは今に始まったことではないし、物騒な物言いも、振舞いも別にもう驚くべきことでもない。慣れとは恐ろしいものでそんな赤司の言動1つ1つが愛しいなって思うんだからイカれてる。今日もほら、たまたま手元にあったからって鋏を構えて私の首に押し付ける。いつかのWCで、人前で鋏を振りまわしたと聞いたときはさすがに諌めたけれど、私と赤司以外いないこの部屋ではそれも必要ない。
「なんで今日男と話してたんだ」
「手帳を落としちゃってそれをたまたま拾ってもらっただけだよ」
「なんでそいつに肩を触らせたんだ」
「イヤホンしてて声に気づかなかったみたいなの」
「それは、そもそもお前が手帳を落とさなければあんなやつと関わることもなかったんじゃないか」
「そうだね」
「殺されたいのか?」
赤司がとても怒っている。見ず知らずの男に声をかけられただけで。不可抗力として触られてしまっただけで。首筋に鋏が押しあてられる力が増して、もう少ししたら血が出るのではないかと思う程度には痛い。まっすぐに見つめる赤司の瞳は赤色と黄色でとても美しくてどっちを見たらいいのか分からなくなる。
「いいよ、殺しても」
赤司に殺されるなら本望だよ。そう告げるとその強い眼差しが揺らぐ。射殺す勢いでギラギラとしていた瞳は急に、母親をなくした子猫のように揺らいで弱々しくて、あぁ、なんて愛しいんだろう。
気づいたら鋏は元のテーブルに置かれていて、赤司が私の肩に頭をつく。きゅ、と控えめに腕が掴まれてそれがまた小さな子どもを連想させた。
「そんなこと、言うな」
「うん、ごめん」
「ずっと、僕の傍にいて」
「うん、いるよ」
そうしてポンポンとあやすように背中を叩いてから、ぎゅっと強く抱きしめる。くっついていないところがないように強く抱きしめて、ようやく赤司も私の背中に腕を回す。赤司の顔は私の肩に埋められていて見ることはできないけれど、その瞳はもしかしたら少しばかり潤んでいるんじゃないかって思ってまた愛しくて愛しくてたまらなくなった。