優しい笑顔が好きだった



シリウスがグリフィンドールに選ばれる瞬間をこの目で見ていた。当時はブラックの人間がスリザリンに入るのは当然だったらひどくびっくりしたのを覚えている。でも、しばらく経ってなんだかしっくりきたのも事実だった。自分と共にスリザリンの地下寮で過ごすシリウスなんて想像できない。だから私が驚いたのは本当に最初だけ。組み分けが終わってから思っていたのは、レギュラスのことばかりだった。いつもシリウスの後ろにくっついていたっけ。たまに遊びに行って私を含めて3人で遊んだりもしたものだ。レギュラスは本当にお兄ちゃんっ子だった。なんでもかんでも真似して、真似しなくていいことまで真似しちゃってヴァルブルガさんに叱られていた光景は忘れられない。そんな、大好きな兄が、あのグリフィンドールと聞いたら…。幼いながらにもそれがどういうことかはなんとなくわかっていた。

とは言っても、私はホグワーツにいるし、休暇中は実家に帰るけれどブラック家を訪ねるなんて機会もなく2年が過ぎた。レギュラスは当然のようにスリザリンに組分けられた。

「ようこそ、スリザリンへ」

「ありがとう」

にこり、と可愛らしく微笑んでそれから、その視線がさっと移動したのが分かった。グリフィンドールだ。無理もない。大好きだった兄が異端とも言える場所であんなに楽しそうに笑っているのだ。あぁ、ほんとに、

目を、覆ってしまいたかった。

まだ10歳の彼は、その複雑な感情を隠し切れていなくて、戸惑いをもろに感じてしまって、こっちが泣きたくなった。あの瞬間を私は忘れることはないだろう。そう思いながら毎年組み分けを眺めてもう私は今年で卒業だ。

レギュラスは変わっていった。なんでかってそんなの分かり切ってる。ヴォルデモート卿への盲信だ。こんな風にヴォルデモート卿を崇めるようになったのはいつからだったか。よく、思い出せない。気が付いたらこうだった。手遅れ、ってやつだ。レギュラスが嬉しそうにその左手を差し出したとき、私はレギュラスの組み分けの、あの横顔を思い出していた。

「名前、見て」

「それ、は?」

「死喰い人の証さ!これで僕もヴォルデモート卿に認められたんだ!」

「そう、それは、良かったね」

「あぁ、ブラック家の人間として僕も頑張らなくちゃ」

にこり、と笑った顔を見て思ったのだ。

あなた、誰?