今ここで抱きしめたい



「こんばんは、名前さん」

「うわ、また来たの」

にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべながら平気で他寮へ入ってくるトム・リドル。まぁ、レイブンクローの寮は入り口の謎解きさえできれば誰でも入れるから侵入、とも言い難いのだけれど。

「またって、貴女がいつも僕が読もうとする本を借りてるのが悪いんですよ」

「いやいやそこは大人しく待ってろよ」

「僕がそういう性格だと思ってるんですか?」

「いや、思わない」

現在、私は談話室にて借りてきた本たちを広げて目下闇の魔術に関して研究中なのだ。別に闇払いになりたいわけでもないし、闇の魔術に身を染めたいなどと考えているわけではない。ただの知的興味好奇心だ。あわよくば、私はこっち方面の研究を一生続けたいとも思っている。学問的研究者っとでも言えばいいかな。闇の魔術を研究してその使用が目的ではないのだ。だからこうしてそういった関連の本は片っ端から借りているのだが、ある時からリドルに催促を受けるようになった。最初こそいつだったか。確か図書館でたまたま鉢合わせたのがきっかけだったと思う。いつも借りたい本がない、とやんわりと言われたのがいい思い出だ。今ではこうして借金取りの如く催促にくる始末。

そしてまだ駆け出しにしろ、闇の魔術を研究する私にとって、リドルがどっちの人間かなんて聞くまでもない問題だ。

「じゃ、これ返却手続きして借りておくんで」

ひょい、と目当ての本を持ちあげさっさと踵を返す。傍若無人もいいとこだ。

「ちょ、リドル!」

「どうせ僕の方が読み終わるの早いんですからちょっと待っててくださいよ」

顔だけ振り返ってあとはひらひらと手を振って出て行ってしまった。

あーあ、その背中を無性に抱きしめたい、だなんて






(その背中に背負うものが気づいたからこそ、)