「ディラン〜、いつも言ってるでしょ!ボトルそこら辺に投げておかないでよ!あとからまた洗うのすっごい面倒なんだから!」

「Oh〜Sorry!」

「いつも口だけなんだから!」

練習も終わって各自後片付けに入っている。だいたい適当に片付けは割り振ってあるが終わった者から各自着替えに入ったり少し自主練習をして帰ったりと自由だ。もちろんなまえも共に後片付けをするがドリンクケースや使ったゼッケンをまとめたり、と使った小道具の片付けが主だ。ただいつもグラウンド整備を選手と一緒にやった後でそれらは行われている。それを気づいているのはあまりいない。かく言う俺も少し前に気づいたばかりだが。今日もグラウンド整備を終えて戻ってきたところに、先に片付けを終えて着替えを済ませたディランがボトルを放っておいてるのが目に付いたらしい。確かにディランが同じ注意をされているのは俺が耳にタコだと思ってしまうくらい聞いているというのに本人はあの様だ。

コツン、と空のボトルをわざとディランにぶつけてわーわーやってる姿も愛しいなぁ、なんてぼんやり考えて、それからようやく仲裁に入ってやろうと腰を上げた。

「ディラン、いい加減ボトルを籠の中に戻すくらいはしろ。俺の方が聞き飽きた。」

「ほらね!キャプテンも言ってる!」

「分かってるよー」

これ以上お小言を言われたくないのかディランは素早くボトルを拾って使い終わったボトルを入れておく籠に向かって投げる。まぁ、柔らかいプラスチックボトルだし壊れはしないだろうが。

「ディラン!前それやってボトル全部ぶちまけたでしょ!やめてよね!」

「あ〜も〜ごめんって!あ、ミー今日は友達と約束があるから!Bye!」

逃げるが勝ち、とはこのことを言うんだろうな。やけに着替えを済ませるのが早いとは思っていたがいつもなら着替えてだらだらと他の奴らと喋っているのに脱兎のごとく鞄をひっつかんで出て行ってしまった。なまえもなまえで腑に落ちないというか呆れたように1つ溜息をついた。

「幸せ、逃げるぞ」

「キャプテンに言われたくありませんよぉ」

以前俺に言ったことを覚えているのだろうか。それから他の奴らも片付けを終えたのかだいたい戻ってきて着替えるからとなまえは出て行った。(なまえがいようがいまいが気にせず脱ぎ出すやつが多いがなまえは律儀に部屋を出て行く)彼女も回収し終えたドリンクでも洗いに行くのだろう。俺もさっさと着替えてしまおう。




部屋の鍵を閉めるのは一応キャプテンであるマークの仕事だ。用事があったりだらだら残っているやつがいる時は他の人に任せて帰る時もあし、そこまで厳しく管理しろと言われているわけではない。今日は誰も残らずあっさりと帰っていったので珍しくキャプテンの役割の1つである任を全うしているというわけだ。鍵をかけて帰ろうかと思っていたら後ろから声が聞こえた。

「キャプテーン!待ってください!」

「なまえ、まだいたのか」

「あ、えっと、」

返答にどもりつつ視線を逸らすなまえ。だいたい彼女が挙動不審になっているときは後ろめたいことがある時のサインだ。それを知っているマークはわざとじと目で見てやると彼女は目をきょろきょろさせて結局は白状してしまう。

「ボトル終わって支度をして帰ろうと思ったんですけど、天気が良かったので向こうの芝生でちょっと昼寝を…」

「はぁ…」

ボトルを籠に入れることを怠るディランもディランだがそれをどうのこうの言う資格がこいつにはあるのだろうかと思わずマークは溜息をつく。幸せ逃げるってさっき私に言ったのはキャプテンですよ!と言ってくるがこれはお前呆れたせいだ、というのをなんとか飲み込んでみせた。そんなマークの内心を知ってか知らずか、あ!と声の調子を変える。

「そういえばさっき言ってたあのフォーメーションですけど、あれやめた方がいいですよ。やっぱりキャプテンが少し前気味じゃないと攻撃の支店なくなっちゃうし攻守の切り替えが遅れると思います。」

「なまえは攻撃型の方が好きだもんな。」

「え、なんで知って…」

「いつもの話聞いてれば分かる。」

「さいで、すか…」

決まり悪そうに視線をそらす。いつも仕事をほっぽってゲームを見ていたりするのを思い出したんだろう。しかしマークもマークでその試合の分析やら感想を聞くとつい面白くてなまえの仕事が残っていることも忘れて話し込んでしまうこともしばしばだ。おかげで彼女の好きなプレイや試合展開まで察するようになった。かといって戦う相手によって攻撃重視か守備重視かは考えるところがあるが。どことなく居心地悪そうにしているなまえを見て苦笑するマーク。自分は彼女に注意してばかりな気がするな、という自嘲も含めて。

「なまえのおかげだ」

「え?」

「FFIでもサポートしてもらったし、情報収集まで全部任せきりだったし、1人でこなす量じゃないのに。ありがとな」

「いえ、情報というかあれは私が好きでやってただけですから!」

「それでも助かった。」

「もー、そんなこと改めてキャプテンに言われると泣きそうですよー」

冗談混じりに言ったような軽い口調だったが、ちらっと顔を見てみるとその目が確かに潤んでいる。ただそれは、自惚れでなければ彼女が照れていて、そして感謝されることが嬉しいからだ。そんな泣くことはないのに。言うタイミングがないだけで本来ならもっとありがとうを伝えるべきなのに。そう思うといつの間にかマークはなまえの手を引いて、すっぽりと自分の腕の中に収めてしまった。

「キャ…キャ、キャプテン!?」

「…きだ」

「え?」

「好きだ」

「え…」

声を漏らしたきり黙りこんでしまうなまえ。しばらく抱きしめたままだったがあまりにもなまえが黙ったまま動かないため、マークはゆっくりと抱きしめていた腕をゆるめ彼女の表情を窺う。

「な、なまえ!?」

そっと覗いた顔は真っ赤になりながらボロボロと涙を零していて、今にも声を上げて泣いてしまいそうだった。

「そ、そんなに嫌だったのか!?悪かった!」

「ち、違います!ただ、その、嬉しくて…」

それだけ言ってまたマークからはその表情が窺えない程に俯いてしまう。とめどなく流れる涙を見たときには一瞬で血の気がひいたがじんわりとまた腕に彼女のぬくもりを感じ始める。

「なぁ、それってどういう意味だ?」

「〜〜〜、キャプテン!分かってて言ってるでしょう!」

わざとなまえの耳元に唇を寄せ、囁くように言ってみれば案の定なまえは顔を真っ赤にしながら上げて怒ったような照れたような、それでいて目には涙を溜めながらもう何がなんだかわからない表情をしている。それさえも愛しくて、ただしっかりとした言葉が欲しくて、また彼女に意地悪をしてしまう。

「分からないから聞いてるんだ」

「うぅ……私もキャプテンが、…「マーク」

「へ?」

「マークって呼んでくれないか」

「〜〜〜〜〜〜私もマークのことが好きってことですよ!」

「あとその敬語もやめてくれ」

「え、慣れません!」

「敬語使うたびにキスしてやろうか」

「え!?」




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