「あれ、アスカもうドリンク貰ったのか?」

「マーク、ちょうどなまえとすれ違ってさ。今ちょうど皆の所に持って行ったぞ」

「そうか、俺も貰ってこよう」

「でもなまえ、なんか体調悪そうだったんだよなー。足取りふらついてたし」

「またあいつ、無理してるのか…」

「本人は睡眠不足って言ってたけどな」

「分かった。ありがとう」





そして、どうやらキャプテンの差し金らしく、ディランがマネ業を手伝ってくれた。差し金というか「だってマークがやれってうるさいんだよー」と文句を言いながら手伝ってくれた。そういうキャプテンも、いつもは私も手伝うはずのグラウンド整備をあっという間に終わらせていて、今日はやけに早く時間が空いてしまったのである。なんでだろうなぁ…まぁ、せっかく時間が空いたわけだし、早速ビデオでも見ますかね。




寝る前に水を飲もうと食堂に立ち寄ってからの帰り、アスカがなまえの体調が良くないと言っていたのを思い出して部屋の前を通りかかった。別に尋ねる気もなかったし、ただ通り過ぎるだけの予定だったが…部屋からは明りが洩れている。いや、もう寝るのかもしれない、とも思ったが中から聞こえてくるのは明らかにサッカー実況の音声。またあいつは…、一声かけようと気づかれないようにドアを開けると、そこは散らかり放題の有様。主にメモの紙が錯乱しており、当のなまえはビデオにかじり付いてひっきりなしに手を動かしたかと思えばリモコンをいじっている。

「(ひどいな、これは…じゃなくて!)」

少しだけ開いていたドアを思いっきり開けた。

「なまえ!何してるんだ! 仕事は大方終わってたはずだろう?」

「うわあああ、びっくりした!ってキャプテ…いや、え、…これは…!」

「お前…せっかく俺が気を遣って少しは休ませてやろうと…」

「そそそ、そうだったんですか!?いや、でも相手チームの分析はやっぱり念入りにやっておきたいし、思ったより過去のビデオとかあって、見ておこうかなぁって」

「それでお前が体調崩してたら意味ないだろ」

最初こそ怒ってはいたものの、キャプテンは私のことを心配して言ってくれてるんだ、とひしひしと伝わってきた。やっぱり今日のディランのも私のために言ってくれてたんだなぁ。それはすごくありがたいけど、私が体調崩しても正直試合にはなんの関係もないわけだしそれなら少しくらい無理してでも皆のために何かしたい。そう思ってしまうんだよなぁ

「でも、選手に比べたら私が少しくらい体調崩したって…」

「そんなことしなくても大丈夫だ」

「え…」

「ナイツオブクーンとだって快勝だっただろ?今の俺たちなら勝てる」

「でも…」

「なまえは普段通りでいてくれればいいんだ」

それって…

私のやってることは

無駄だってこと…?

「だ、…」

「?」

「だめですよ!そんなこと言ってたら足元掬われるんですから!」

「なまえ…?」

「私だって…、皆のために…何か役に立てるように…頑張ろうと思って…そんなことは必要ないってことですか!?」

「いや、そうじゃな…」

「キャプテンの馬鹿!もうキャプテンのドリンクなんか作らないんだから!」

「泣くなよ…」

わんわん泣きわめく私を、ぎゅっとキャプテンが抱きしめた。おかげで声を出せばくぐもってしまうし、呼吸がし辛いしで、しかも落ち着いてくるとなんて馬鹿なことをしたのだろう、と自己嫌悪に陥り始めてもう黙りこむしかなくなってしまった。大人しくなったのを見計らって、キャプテンがあやすようにぽんぽんと背中を叩いてくれた。

「悪かった」

「……」

「言い方が悪かったな…。その、なんだ…あんまり無理しないで欲しかったんだ」

「でも」

「たった一人のマネージャーだ。倒れられたら誰が俺たちのドリンクを作ってくれるんだ?」

「う…」

「洗濯物だって大量に出るしな」

「うぅ…」

「それで、明日の俺のドリンクは作ってくるんだろうな?」

抱き締められていた腕が解かれて、キャプテンに顔を覗きこまれる。こっちは大泣きして顔が大変なことになっているだろうに、目の前のキャプテンはすごく優しく微笑んでいて、なんかもう…逆らえないなぁ…。

「……作ります」

「よろしい。じゃあ今日はもう寝ろ」

「はい」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

ぱたん、と静かに閉まるドア。部屋は相変わらず錯乱状態だし、ビデオもさっき一時停止にしたままで、雑然とした状況だったけど、今日はなんだかよく眠れそうです。




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