bit by bit


「オイ!!!!!!!起きろ!!!!!!!!!」

ドンガラガッシャン…………とまではいかなくても、どうやったらそんな音が出るのかという勢いでドアを開け、これでもかというクソデカボイスでがなりたてるプロシュートの声が布団越しに聞こえる。アウェイの試合会場じゃあるまいし、そんなに声出さなくても聞こえてるっつーの!という私の言い分が聞き入れられた試しはない。

と、起きて頭がはっきりしている時には考えてるんだけれども、いかせん寝起き。プロシュートが入ってきた音で初めて目を覚ましているんだから、くそ……また来た……と頭の片隅で考えつつ布団を握りしめて丸くなるに留まっている。

「オラ、テメー今日仕事入ってんだろォが!いつまで寝てる気だ、働け」

「うげ〜〜〜〜〜、やめて、寝起きに響く………うるさい」

「誰のためにやってると思ってんだ?あ?」

プロシュートが容赦なく布団ごと体を揺する。きっと震度8くらいある。そもそも起こしてくれなんて頼んでもいないのに、そんなことを言ったらクソデカボイスが殺傷能力を持つほどグレードアップしてしまうはずだからもぞもぞと唸るしか出来ない。

「ごめんなさい、マードレ。あと5分したら起きる………」

「テメーのマードレになった覚えはねェぞ!このマンモーナが!」

ベシン、と結構な勢いで頭を叩かれる。布団を被っていたのでそこまで痛くはないが、寝起きには効く。この一連のやりとりのせいで否が応でも目が覚める。とりあえずクソデカボイスの威力だけでもやばいのに震度8だ。命の危機を感じる。

「起きた、ちゃんと起きた」

降参のポーズで両手をあげてから、顔を寄せてきたプロシュートの頬に挨拶のキスをして、くぁっとあくびを1つ。

「ったく、手のかかるマンモーナだぜ」

ここで、ようやくクソデカボイスが落ち着くのだ。凄まじい追尾型、とは違うか?なんていうか、絶対起こすマンな目覚ましだ。ちゃんと私が起きたのに満足したようでキスを返してからさっさと部屋を出ていった。

このおはようのキスだって、今でこそ挨拶として全く抵抗なくなってしまったけど、最初寝起きの悪い私に試しにキスしてみたら、私があまりにも吃驚して飛び起きたことに始まり、そのあと起きる起きる詐欺を繰り返したせいで、私からしないと部屋を出ないと言い張りいつの間にか習慣づいてしまったのだ。改めて考えてもどうしてプロシュートがそこまでして絶対起こすマンになったのかわからない。なんの因果か、私が寝坊したことによってプロシュートの女でも死んでたか?と、また余計なことを考えて部屋を出るのが遅くなると絶対起こすマンが舞い戻ってきてしまう。早く着替えよう。




「ま〜たやってんのかプロシュートは」

2階からいつものようにプロシュートががなりたてる声が聞こえる。もはや聞き慣れた日常にはなっているもののうるさいものはうるさい。誰に言うでもなく、というかその場にいる者の声を代表するかのようにホルマジオが呆れた声で呟いた。


プロシュートが名前を気にかけているのは暗殺チーム誰もが知っているが、それはペッシと同じものでなんだかんだ世話焼きだな、くらいにしか思っていない。ホルマジオを除いては。

いつもうるさく彼女を起こしに行く時間より、ずっと早い時間。プロシュートが静かに名前の部屋に入っていくのを見たホルマジオはほんの興味本位で自身の体を縮め、名前の部屋に続いたことがある。足音を消していたあたり名前を起こしに行ったわけではなさそうだった。

ホルマジオが部屋の中に入った頃には、プロシュートはベッドに腰掛けていて、やはり名前を起こす気配はない。それからゆっくりと彼女の頬に手をあてて慈しむように撫でてからキスをする。最初は頬に、それから鼻、額、顔中にキスをする様はまるで愛しい恋人にするよう。ホルマジオは顔のいい男がやるとやっぱり映画みたいになるもんだなとどうでもいいことを考えつつ、こんなものいつまで見ていても楽しくもなんともない。げんなりしながら早々に部屋を出た。元のサイズに戻ってから、そういえばプロシュートは口にはキスをしなかったことに気づく。普段の様子から名前とプロシュートがいい仲なわけがないし、これはひょっとするとかなりガチで名前のことが好きなのでは。


このネタを得てからというもの、ホルマジオはプロシュートと名前の様子を見ることが面白くてたまらなかった。プロシュートもプロシュートで、普段全く気のある様子は見せない。これは本当に感心ものだった。ただし、試しにちょっかいを出してみようとしたことがあった。不自然じゃない、酒の席で。

「名前、まつ毛ついてんぞ」

「え、どこ」

「頬じゃねぇ。目のすぐそばだから取ってやるよ。目ェ瞑れ」

「ん」

全部嘘である。まつ毛なんてついていない。近くにいたプロシュートの視界に入ることを確認してから、名前の額にキスをしてみせた。

「ぎぇっ、ホルマジオなにす、」

ホルマジオは笑いを堪え、びっくりした様子を気取るのに必死だった。名前がリアクションを返しきる前に、プロシュートがホルマジオと名前の間に割って入ったのだ。

「ホルマジオ、酔ってんならさっさと寝ろ」

「な〜んだよ!ちょっとふざけただけじゃあねぇか。な、名前」

「いや、私に振られても。でも全然飲んでないのに絡むくらい酔ってるんなら疲れてんじゃない?寝れば?」

プロシュートはガチでキレそうだし、名前は名前で普通に俺の体調の心配し出すしで、本来ならもうちょっとからかってやりたいところだが、どうも顔の筋肉がもちそうにない。

「そうだなぁ。明日から長めの仕事入ってるしそうするか」

あくまでも自然にその場を離れることに成功した。まぁ、その流れでプロシュートはきっと名前と飲んでるだろうし、それで許してくれやと自己完結だ。

当分の間、ホルマジオはこの2人の、というかプロシュートの頑張りを見守ることで暇つぶしができそうだとニヤニヤしながら部屋に戻るのだった。